判例検索β > 平成9年(行ウ)第22号
消費税更正処分等取消請求事件
事件番号平成9(行ウ)22
事件名消費税更正処分等取消請求事件
裁判年月日平成13年3月27日
法廷名福岡地方裁判所
判示事項消費税法(平成6年法律第109号による改正前)30条7項にいう「帳簿又は請求書等を保存しない場合」に当たるとして,同条1項に基づく課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないとしてした消費税の更正が,適法とされた事例
裁判要旨消費税法(平成6年法律第109号による改正前)30条7項にいう「帳簿又は請求書等を保存しない場合」に当たるとして,同条1項に基づく課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないとしてした消費税の更正につき,同項にいう「帳簿等を保存」とは,税務職員の質問検査権に基づく適法な調査に応じて課税仕入れの存否及び課税仕入れ等の税額を確認できるように提示しうる状態,態様での保存を意味すると解するのが相当であるとした上,当該税務職員が第三者の立会いがあっては調査ができないとして第三者の立会いがない状態での調査を再三にわたって要請したにもかかわらず,第三者が立会った調査に固執したことなどの調査の経緯からすると,帳簿等の保存期間における同職員の適法な帳簿等の提示要請に対し,正当な理由なく提示を拒否し,そのため同職員がその内容を確認することができなかったものと認めざるを得ず,同項に規定する「帳簿等を保存しない場合」に当たるとして,前記消費税の更正を適法とした事例
裁判日:西暦2001-03-27
情報公開日2017-10-19 22:14:10
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主 文
一 被告八女税務署長が、原告に対し、平成七年二月一三日付けで行った原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額二九万九〇〇〇円を超える部分を取り消す。二 原告の被告八女税務署長に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告八女税務署長が、原告に対し、いずれも平成七年二月一三日付けで行った次の各処分を取り消す。
1 原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額二九万一一〇〇円を超える部分2 原告の平成四年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額二九万三八〇〇円を超える部分及びこれに対する過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも被告八女税務署長が原告に対してした平成七年六月二〇日付けの異議決定により一部取り消された後の部分)3 原告の平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額四万八〇〇〇円を超える部分及びこれに対する過少申告加算税賦課決定
二 被告国は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 本件事案の概要
一 本件事案の要旨
本件は、被告八女税務署長から平成三年ないし平成五年の各課税期間に係る消費税についての更正並びに平成四年分及び平成五年分の過少申告加算税賦課決定を受けた原告が、その前提となる税務調査が違法であること、また、帳簿等の保存がないとしてした仕入れに係る消費税額の控除の否認が違法であることなどを理由として、被告八女税務署長に対して右更正及び賦課決定の各処分の取消しを求めるとともに、被告国に対して国家賠償法一条一項に基づき慰謝料及び民法所定の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
二 関係法令の定め
消費税法(二八条一項、二九条、三〇条一項及び七項については平成六年一二月法律第一〇九号による改正前のもの、三七条一項については平成三年五月法律第七三号による改正前のもの、以下法という。)は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税を課する旨(四
条一項)、消費税の納付義務は事業者が負う旨(五条)、そして、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とし(二八条一項)、消費税率を一〇〇分の三とする旨規定している(二九条)。また、法は、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることを課税仕入れというが(二条一項一二号)、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額が控除される旨を規定している(三〇条一項、以下仕入れ税額控除という。)。しかし、この仕入れ税額控除は、事業者が当該課税期間の課税仕入れに係る消費税額等(以下課税仕入れ等の税額という。)の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には、法三〇条七項ただし書に該当する場合を除いて、当該保存がない課税仕入れ等に係る課税仕入れ等の税額について適用されないことになっている(三〇条七項)。そして、法は、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の計算について中小事業者の仕入れにかかる消費税額の控除の特例(三七条一項、以下簡易課税という。)を認め、その計算において乗じる一定割合を、卸売業を主として営む事業者として消費税法施行令(ただし、五〇条一項については平成七年九月政令第三四一号による改正前のもの、五七条一項、二項については平成三年六月政令第二〇一号による改正前のもの、以下令という。)で定める者は一〇〇分の九〇、それ以外の事業者は一〇〇分の八〇と定め、令五七条二項には、

卸売業とは、他の事業者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で小売業以外のものをいう。

と規定している。

三 争いのない事実
1 当事者
原告は、肩書地において事務用品を販売する業を営む個人事業者であり、平成元年九月二八日付けで簡易課税の適用を受ける旨の届出を、また、平成四年三月三〇日には平成四年課税期間以後の消費税については簡易課税を取りやめる旨の届出をそれぞれした。
2 本件訴訟に至る経緯等
(一) 確定申告
原告は、平成三年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下平成三年課税期間という。)、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下平成四年課税期間という。)及び平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下平成五年課税期間といい、平成三年課税期間、平成四年課税期間及び平成五年課税期間を併せて各課税期間、平成四年課税期間及び平成五年課税期間を併せて両年課税期間という。)の消費税について、被告八女税務署長に対し、別表一記載のとおりの確定申告をした。(二) 被告八女税務署長の原告に対する原処分
被告八女税務署長は、原告に対して税務調査を行い(以下本件調査という。)本件調査の結果、平成七年二月一三日付けで、平成三年課税期間については簡易課税の適用を受けるについて卸売業を主として営む事業者(以下卸売業者という。)に対して適用する割合である一〇〇分の九〇を適用する、また、両年課税期間については法三〇条七項が定める課税仕入れ等の税額控除に係る帳簿又は請求書等(以下「帳簿等という。)を保存しない場合」に該当するなどとして、原告の各課税期間に係る消費税について課税標準額及び納付すべき税額を別表二記載の額とする更正と両年課税期間に係る過少申告加算税についてその額を別表二記載の額とする過少申告加算税賦課決定(以下、各課税期間に係る消費税についての更正及び両年課税期間に係る過少申告加算税賦課決定を併せて本件各処分といい、両年課税期間の消費税についての更正及び過少申告加算税賦課決定を併せて両年各処分という。)をした。
(三) 異議申立て及び審査請求手続
原告は、被告八女税務署長に対し、平成七年三月九日、本件各処分について異議申立てを行ったが、被告八女税務署長は、同年六月二〇日、平成四年課税期間については原処分の一部を取り消して別表三記載のとおりとし、平成三年課税期間及び平成五年課税期間については右異議申立てをそれぞれ棄却した。そこで、原告は、平成七年七月一七日、本件各処分についての審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、平成九年四月二一日、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(四) 本件訴訟の提起
原告は、本件調査は違法であること、両年課税期間については法三〇条七項の帳簿等を保存しない場合には該当しないにもかかわらずこれに該当するとして仕入れ税額控除を否認したのは違法であることなどを主張して平成九年七月一七日本件訴訟を提起した。
3 本件各処分に
おける被告八女税務署長の計算方法
(一) 課税標準額及び課税標準額に対する消費税税額
消費税の税額を算出するには、まず、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の合計額である課税標準額を算出する。そして、消費税の会計処理につき税込み経理をしている場合、すなわち、課税資産の譲渡等につき税込みで代金を領収している場合には、その合計額に一〇三分の一〇〇を乗じた金額が課税標準額である。そして、本件においては、仕入れ先の調査等に基づいて把握した原告の各年分の仕入れ金額を基に、原告と事業規模、形態の類似した同業者の平均仕入れ原価率で割り戻して推計した各年の事業所得の総収入金額が消費税の税込みの課税資産の譲渡等の対価となるので、その総収入金額に一〇三分の一〇〇を乗じた額が各課税期間の課税標準額となり、この課税標準額に一〇〇分の三を乗じた額が課税標準額に対する消費税額となる。
(二) 仕入れ税額控除等
(1) 平成三年課税期間
平成三年課税期間については、原告が簡易課税の適用を受ける旨の届出をしているので、前記(一)の課税標準額に対する消費税額に一定割合を乗じた額を課税仕入れ等の税額とみなして控除することになる。本件における課税仕入れ等の税額の
計算においては、課税標準額に対する税額に卸売業者に対して適用する割合である一〇〇分の九〇を乗じたものである。
(2) 両年課税期間
両年課税期間については、実額により仕入れ税額控除を行うことになるところ(法三〇条一項)、原告には法三〇条七項に定める帳簿等を保存しない場合に該当する事由があるので、仕入れ税額控除を否認する。
四 争点及び争点に関する当事者の主張
1 本件調査における違法性の有無
(原告の主張)
本件調査は、以下に述べるとおり、その必要性を欠き、事前の通知もなく、理由の開示もないまま行われたものであり、また、原告において第三者の立ち会いを求めたのに対し、調査に支障がないにもかかわらず、これを排除して行われたものであるから、違法である。したがって、違法な本件調査に基づく本件各処分も違法である。
(一) 本件調査の経緯
被告八女税務署長の部下職員であるA上席国税調査官は、以下のとおり、原告の自宅兼店舗に赴くなどして、本件調査を行った。
(1) 平成六年九月五日
Aは、右同日、事前に何の連絡もなく原告の自宅兼店舗に来て、用件を尋ねる原告に調査に来ました
と述べ、これを聞いて驚いた原告が私を調査するとねと聞くと、

はい、そうです。消費税と所得税の調査に来ました

と答えた。原告は、申告はきちんとしているので税務調査をされるということ自体疑問であったため、申告におかしなところがあるのかを聞いたが、Aは、調べないとわからないと言うばかりで、税務調査の理由を全く説明しなかった。原告は、当日の仕事の予定にも差し支えるため、

突然来られても対応ができない。今日のところは帰って下さい

と頼むとともに、いつがいいですかとのAの問いにこちらから連絡しますと答えたので、Aは、原告の自宅兼店舗を退去した。
(2) 平成六年九月一六日
その後、原告は、Aに連絡をしなければならないとは思っていたが、仕事が忙しかったことと、自分の申告が正確であることに自信を持っていた一方、Aが税務調査の目的を具体的に述べず、真剣味もなかったことから、連絡が後回しになっていた。すると、右同日、原告が仕事の出先から原告の自宅兼店舗に戻ってくると、原告の妻から、Aが二一日の午前一〇時に来訪すると記載したメモを置いていったことを告げられた。
(3) 平成六年九月二〇日
原告は、右同日仕事の関係で翌二一日はどうしても都合が悪く、Aが来訪する日を変更してもらいたいと思い、八女税務署にAを訪ねてAにそのことを頼むと、Aは、

早くして欲しいので、いつならいいか

と訪ねて来たので、こっちから連絡すると答えて八女税務署を退去した。(4) 平成六年九月二八日、二九日
その後、原告は、仕事が一段落する時期を待ってAに連絡をしようとしていたところ、右二八日、Aから税務調査の日程を決めたいという電話があったので、

月末から月初めの五日ころまでは、請求書の作成と配布でどうしても忙しいので、六日にして欲しい

と話し、一旦は同日午前一〇時に税務調査に来てもらうことが決まったが、翌二九日、Aから電話があり、右六日は都合が悪くなったので変更して欲しいと頼まれたため、結局、同年一〇月七日午前一〇時に税務調査に来てもらうこととなった。
(5) 平成六年一〇月七日
原告は、自身が会長をしている八女民主商工会(以下八女民商という。)に税務調査を受けることになるかもしれないという話を既にしていたが、原告が初めて税務調査を受けることを心配した八女民商の会員に是非力になって下さいとお願
いしていた。そして、原告は、右同日午前九時五〇分ころ、税務調査のために来たAを自宅兼店舗の裏にある倉庫(以下本件倉庫という。)に案内したが、本件倉庫には、原告のことを心配して税務調査に立ち会おうとしている八女民商の会員が一〇数名待っていた。原告は、本件倉庫に机を四脚並べ、その上には平成三年ないし五年分の売掛帳、仕入れメモ帳、金銭出納帳合計八冊を置き、また、机の横に
は、仕入伝票、納品書、領収書及び請求書等が入った段ボール箱を一〇箱くらい積み上げて、いつでも税務調査が受けられる状態にして税務調査の目的を尋ねたところ、Aは、所得の確認ですと言うのみで、とにかく調査させて下さいと繰り返すばかりだった。そこで、原告は、どうぞ調査して下さいと言ったところ、Aが八女民商の会員を立ち退かせるようにと原告に要求したので、八女民商の会員は一緒に税金の計算をして税務申告をした仲間であり、原告の申告内容について原告同様によく分かる人たちなので、一緒に立ち会ってもらいますと答えた。すると、Aが立会人がいると守秘義務の関係で調査できませんと言ったので、原告は、全部何でも打ち明けているから守秘義務はないと反論した。このようなやり取りがしばらく続き、同日午前一〇時五〇分になると、Aは、時計を見て立ち上がり、そういう態度ならば調査できませんと言って原告の自宅兼店舗を退去した。
(6) 平成六年一〇月一三日
Aは、右同日午前九時四〇分ころ、突然原告の自宅兼店舗へ来て、法三〇条七項の条文のコピーを原告に見せ、帳簿や請求書を提示しないと仕入れ税額控除はできない旨を述べた。そこで、原告は、

帳簿はあるから見てくれ。この間もちゃんと置いていたじゃないか

と言うと、Aは、立会いがいると見れませんと繰り返した。
(7) 平成六年一〇月一八日
Aは、右同日午前九時三〇分ころ、原告の自宅兼店舗へ来て、同月一三日と同様のことを繰り返した上で、立会いなしで調査させて欲しいと言った。これに対し、原告は、立会人なしでは不都合が起こるので困ると答えた。
(8) 平成六年一〇月二八日
原告は、Aが税務調査のために原告の自宅兼店舗を訪れた後、原告の取引銀行である大牟田信用金庫α支店などに不当な税務調査を受けているので税務署から問い合わせがあったら連絡をして欲しい旨を伝えていたところ、右同日午後二時ころ、同支店から

今、八女税務署のAという人が来ており、Bさんの銀行取引を見せて欲しいと言っています

と電話連絡があった。そこで、原告は、急いで同支店に行き、同支店次長に対し

まだ私は税務調査を拒絶してもいないし、帳面も調べられていない。ですから、書類を見せるのは待って欲しい

と頼む一方、Aに対しては

税務調査を拒絶したわけでもないのに、勝手な反面調査はやめて欲しい

と抗議をしたので、Aは同支店を退去した。しかし、Aは、同日福岡銀行α支店にも反面調査に行ったほか、原告の仕入先計一七社に対して各課税期間の原告に対する売上明細書を送るようにと記載した文書を発送していた。そのため、こうした一連の反面調査の結果、取引先における原告の評判は著しく低下した。(9) 平成六年一二月一三日
Aは、右同日午前九時四五分ころ、従前と同様に事前の連絡なしに原告の自宅兼店舗へ来て、原告に対し、帳簿等を見せるように要求した。原告は、仕事の段取りをしている最中であったので、

仕事に差し支える。営業妨害じゃないか

と言って抗議をしたが、Aが右抗議には全く耳を貸さずに帳簿等を見せるように要求したので、

前回も見せたし、いつでも見せる。そっちが見ないじゃないか

と答えた。すると、Aが立会人がいては見られないと言うので、原告は、立会人の必要性を一生懸命説明し、是非見て欲しいと何度も頼んだ。しかし、Aは、全く聞き入れずに原告の自宅兼店舗を退去した。
(10) 平成六年一二月二〇日
Aは、右同日午前九時五〇分ころ、突然原告の自宅兼店舗へ来たが、同月一三日とほぼ同じような状況であった。
なお、被告らは、原告がAを外に無理矢理押し出し、鍵を掛け、中に入れないようにした旨主張しているが、そのような事実はない。
(11) 平成七年一月六日
原告は、自分の申告に自信があったので、税務調査を受けることは一向に構わなかったが、いつまでもつまらないことに時間を使いたくないと考え、右同日、自分から八女税務署へ行き、いつでも帳簿等を見せるので早く本件調査に着手して欲しいこと及び反面調査は信用を損なうので厳に慎んで欲しいことを請願した。そして、その後、Aと打ち合せた結果、同年一月一一日午前一〇時に税務調査を行うことが決まった。
(12) 平成七年一月一一日
原告は、原告の妻及び八女民商事務局長であり原告の記帳補助者でもあるC
と三人で、本件倉庫でAを待つ一方、平成六年一〇月七日に税務調査を受けようとした時と同様、本件倉庫の中の机の上には、売掛帳等八冊及び請求書数冊の束を、その周りにはそれ以外の請求書や仕入伝票が入った段ボール箱一〇箱くらいを積み上げるなどして関係書類を全て用意していた。そして、原告が本件倉庫に来たAにどうぞ見て下さいと言って税務調査を行うよう促したところ、Aは、一〇月の時もこういう風にしてくれたらと言って、本件調査に着手しようとした。そして、原告が、まず、Aに請求書を見せようとしたところ、Aが原告に請求書をまとめた帳簿を見せて下さいと言ったので、原告は、

消費税法三〇七条七項には『帳簿又は請求書』となっているから、請求書でいいでしょう

と言うと、Aは、

それじゃ、やむを得ません。この請求書を見ましょう。確認させていただきます

と言った。それからAは、今日は何時までですかと原告に尋ねたので、原告は、

一二時までです。今から何度でもしましょう

と答え、更に、

この次は仕入帳を探しておきましょう。でも、走り書きですが

と言った。Aは、一冊の請求書の束を手に取り、これは五年分の請求書ですねと言って、株式会社迅務の請求書を見てその存在を確認し、更に、

今日、できる限り見ていって、この次帳簿を用意しとってもらいましょう

と言って、税務調査を開始した。したがって、この時点で、Aは、請求書が保存されていることを確認している。ところが、Aは、その後突然、原告に対し、Cさんを退席させて下さいと言ってきた。しかし、Cは、原告が申告をする際に、売掛帳、仕入帳、金銭出納帳、仕入伝票、納品書、領収書、請求書等を見てもらい、一緒に計算をするなどその手伝いをして原告よりも申告内容について詳しかったから、単なる立会人ではなく記帳補助者として是非とも立ち会ってもらわなければならなかった。そこで、原告は、Aにその旨説明したが、これを全く聞き入れないAがCさんに帰ってもらって下さいと言い張ったので、

ここまで来て、どうして見ないんですか。私はこれだけ帳簿、伝票を用意していますよ

と税務調査を実施してくれるように何度も懇願した。すると、Aは、

はい、用意されていることはわかっています。でも、立会いは遠慮してもらいます。仕入れに関する書類は保存していることは認めますが、何とか見せて下さいというお願いです

と言うだけであった。そして、結局それ以上の調査をせずに帰ろうとしたので、原告が、

調査の場に請求書等を提出していたことを証明したいので、写真を撮りたい

と言うと、Aは、

写真はお断りします。請求書等があったことは認めます。せっかく用意されていたのに、立会いがあったので、私が見なかったということですね

と言ってそのまま原告の自宅兼店舗を退去した。(二) 本件調査の必要性の欠如等
(1) 税務調査における質問検査権の行使
憲法は、国民主権に基づき、三〇条で納税の義務を、八四条で租税法律主義を規定しているので、国民は国民の代表者が定めた法律に基づいて主権者として税金を納めることになり、結局、税金は自分のために納めることになる。したがって、国民主権の下における納税のあり方は当然のごとく申告納税制度となる。そして、法も申告納税制度を採用しているが、申告納税制度の下では、国民は自主申告権を持ち、納税額は原則として国民の自主申告によって確定することになり、納税者が申告した場合、税務署において適正な税務調査をして、その額が正しくないという合理的根拠がある場合に限り、税務署長は更正や賦課決定ができることになる。逆に言えば、税務署が適正な税務調査をすることなしにこれらの処分をすることは許されない。そして、申告納税制度の下では、これらの処分を行う前提としての税務調査における質問検査権の行使についても、①税務調査の客観的な必要性があること、②これと私的利益との衡量において社会通念上相当な範囲に止まること、③その方法選択が合理的であることの各要件を満たさなければならず、右要件をみたさない質問検査権の行使は違法であり、右質問検査権の行使を前提とするこれらの処分もまた違法であると解すべきである。そこで、右要件に照らして本件調査の違法性について以下検討する。
(2) 本件調査の必要性
被告らは、本件調査の必要性について、原告から提出された所得税確定申告書に記載された各年分の所得金額及び消費税確定申告書に記載された各課税期間の消費税の金額が適正なものであるか否かを確認する必要があった旨主張する。しかし、税務調査はそもそも申告額の正確性を確認するために行われるのであるから、被告らの右主張は、本件調査の必要性について何ら述べていないに等しいし、そこには、

納税者は嘘つきであり、常に嘘の申告をしているに決まっている

という偏見があることは明らかである。しかし、このような偏見は、国民主権に基づく申告納税制度と根本的に矛盾するものであって許されない。そこで、税務調査の客観的必要性がある場合とは、申告額が正確でないという合理的根拠がある場合でなければならず、税務署が何らかの資料によって当該納税者の申告が正当ではないと判断した場合に限って、税務調査に着手できるといわなければならない。このように考えることは、右に述べた国民主権に基づく申告納税制度の精神に合致するとともに、恣意的な税務調査を排除することにもつながるものである。
本件においては、Aが本件調査に着手する際に、原告が正確な申告をしていないことを示す合理的根拠は何ら有していなかったのであるから、本件調査はそもそもその必要性を欠き、違法であるといわざるを得ない。
(3) 本件調査の態様等
前記(一)記載の本件調査の経緯によれば、本件調査のほとんどは、原告に事前に通知をすることなく、しかも、原告の仕事に支障がある時間帯に行われている。また、原告の調査理由の開示要求に対し、その必要性や理由を全く示していない。したがって、本件調査は、原告の私的利益を全く考慮することなく行われ、また、その方法選択も合理性を欠く違法なものであるといわざるを得ない。 また、前記質問検査権行使の適法性の基準に照らせば、反面調査は客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限って行われるべきである(税務運営方針参照)。ところが、前記(一)記載のとおり、Aは第三者の立会いなしでは税務調査は行えないという態度に終始し、その結果税務調査が行えないために反面調査を行ったものであるところ、後記のようにAが本件調査において第三者の立会いを拒否したことには何ら合理性は認められないのであるから、本件調査における反面調査が客観的にやむを得ず行われたとは到底認めることはできず、違法なものであるといわざるを得ない。
(三) 税務調査における第三者の立会い
(1) 納税者の権利としての第三者の立会請求
税務調査を受ける納税者は、税法や税務に精通しておらず、税務職員の税務調査に十分に対応し、自分の権利や利益を守ることができないのが通常である。そのため、税務調査に第三者が立ち会うことによって、不当な調査が行われないように監視し、不当な調査が行われれば調査を受ける納税者にその
旨助言し、その場で不当な調査を是正させる必要があり、税務調査において第三者の立会いを求めることは、納税者の当然の権利であるというべきである。したがって、第三者の立会いを理由として税務調査を放棄することはそもそも許されないことである。
仮に、右見解が容れられず、税務調査において第三者の立会いを認めるか否かについて税務職員に一定の裁量が認められるとしても、以下のように考えるべきである。すなわち、まず、税務調査における第三者の立会いの可否については、右税務調査における第三者の立会いの重要性に照らせば、質問検査権の円滑な行使という税務署の都合のみを優先させ、税務調査において第三者の立会いを求める納税者の利益を鑑みないことは許されないというべきである。また、税務調査における第三者の立会いにも、例えば納税者が日頃から帳簿等の記帳、作成その他について援助を受けている第三者を立ち会わせる場合から、そのような立場にない第三者が多数で税務職員を取り囲んで調査理由の開示や立会いを認めるべきことを要求する場合まで、様々な形態が考えられるので、一律に税務調査における第三者の立会いの可否を判断することはできないはずである。したがって、税務調査における第三者の立会いは、個々の場面において立会いの必要性、立会いの態様、当該調査の段階、当該調査の内容等を総合的に見て、第三者の立会いが明らかに調査に支障を来す場合にのみ、これを排除することが正当化されるというべきであって、右支障が認められないのに第三者の立会いを排除した場合には、右税務署員の措置は、裁量を逸脱するものであって違法であると解すべきである。この点、所得税の青色申告承認取消処分に関する下級審の裁判例においても、税務調査における第三者の立会いの排除が認められるか否かにつき、税務署員が帳簿等の保存状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったか否かという点が問題にされている。
(2) 第三者の立会いと税務職員の守秘義務違反
被告らは、税務調査において第三者の立会いを認めると税務職員の守秘義務に反するおそれがあると主張している。しかし、右主張は、失当である。すなわち、第
三者の立会いを認めるか否かの場面で問題となる秘密には、①納税者自身の秘密、②納税者の取引先の秘密、③税務職員又は税務署の判断が考え得る。そこで、まず、納税者自身
の秘密について検討するに、納税者自身の秘密は、納税者自身が放棄できる性格のものであるところ、納税者自身が第三者の立会いを望んでいる以上、自らその秘密の開示を容認しているのであるから、この秘密の保護は問題となり得ない。次に、納税者の取引先の秘密について検討するに、税務調査に税務職員と納税者だけが立ち会った場合でも、納税者には守秘義務はないのであるから、税務調査の過程で納税者に明らかになった納税者の取引先の秘密は外部に洩れるおそれがあり、税務調査に第三者が立ち会うことによって初めて生じる問題とは考えられない。この点、被告らは、税務職員は税務調査において納税者に質問をしてその回答を引き出すところ、第三者の立会いを認めると、その過程で取引先の秘密を納税者が明かした場合に、税務職員の税務調査をきっかけとして第三者に対し取引先の秘密が明かされることになってしまい、守秘義務違反が生じるおそれがある旨主張する。しかし、国家公務員法一〇〇条は職務上知ったことを漏らしてはならないと規定しているのであって、他人の秘密を漏らさせるような職務行為を行ってはならないとは規定していないのであるから、右のような解釈は考えられない上に、仮に被告らが主張するように、税務調査の過程で取引先の秘密が第三者に明らかになって、税務調査の守秘義務との関係で問題が生じうるとしても、税務調査という正当な職務行為に基づくものであるから違法性が阻却されるものである。また、税務職員又は税務署の判断については、それが当該納税者の事件に関するものであっても、第三者に対してはもちろんのこと、当該納税者自身にも漏らしてはならず、これも税務調査に第三者が立ち会うことによって初めて生じる問題とは考えられない。よって、税務職員の守秘義務は、税務調査における第三者の立会いを排除する根拠たり得ない。
また、被告らは、税務調査において第三者の立会いを認めると、税理士法違反のおそれがある旨主張する。しかし、税理士法が禁じているのは、税理士でない者が業として納税者の代理行為を行うことであるところ、税務調査に立ち会う第三者は、納税者を代理して質問検査を受けるわけではないのであるから、税務調査において第三者の立会いを認めることが、税理士法に違反することにはならないことも明らかである。
(3) 本件調査における第三者の立会い
平成七年一月一一日
の税務調査の際、原告が立会いを求めた第三者はC一名である。Cは、税金問題を重要な会務活動とし、原告が会長を務める八女民商の事務局長であって、会長である原告に対する税務調査に深い関心を抱くとともに、その税務調査が適正に行われるように監視しなければならないという強い意識を有していた。そして、前記(一)記載のとおり、原告は、その妻及びCと三人で、本件倉庫でAと相対し、本件倉庫の中の机の上に売掛帳等八冊及び請求書数冊の束を、その周りにはそれ以外の請求書や仕入伝票が入った段ボール箱一〇箱くらいを積み上げるなどして関係書類を全て用意し、Aに税務調査を促したのである。このことからすれば、原告が税務調査に積極的に協力しようとしていたことは明らかである。そして、Aは、原告が見せた請求書を確認したところで、突然Cの退席を要求し、これを原告が拒んだところ、第三者の立会いを理由に税務調査を中止したのである。右事実によれば、Cは調査妨害等は一切していないから、Cの立会いによって税務調査が阻害されることは考えられず、Aは、さらに税務調査を続けることが可能であったにもかかわらず、単にCの立会いを理由に税務調査を打ち切っているのである。仮に、被告らが主張するようにCの立会いを認めることによってAの守秘義務が問題になり得るとしても、税務調査の過程で守秘義務の観点からCが立会いをしていては問題であると判断した時点で、Cの退席を求めれば足りたはずである。したがって、本件調査において、AがCの退席を求め、Cが退席をしないことを理由に税務調査を打ち切ったことは、Cの立会いによって何ら支障が生じていないのに行われたものであるから、裁量を逸脱するものであって違法といわなければならない。また、前記青色申告承認取消処分に関する下級審の裁判例で用いられている基準に従っても、本件において、Aが帳簿等の保存状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったということができないことは明らかである。 そもそも、税務調査において第三者の立会いを認めるか否かの判断は極めて恣意的に行われている。例えば、被告らは、税務調査において、帳簿等の記帳全般に関
与して納税者と同じくらい申告内容に詳しいいわゆる記帳補助者については、その立会いを認めることもあるが、右立会いを認めるにしても無限定ではなく、むしろ原則としては認めず、必要がある場合に同席してもらう旨主張している。しかし、実際には申告の際に助言をしたに過ぎない者についても立会いを認め、しかも必要に応じてではなく、右立会いを認める場合には最後まで同席させるケースがほとんどである。また、個人事業者に対する税務調査の場合には、第三者の立会いを口実に税務調査を中断したときでも、税務署長は推計課税によって更正できるが、法人の場合には、推計課税を行おうとすれば、損益計算書と貸借対照表の数字を合わせるために税務署は大変に面倒な作業を行わなければならなくなるので、これを避けるために、第三者の立会いがあってもそのまま税務調査を続けるのが実情である。このように、税務調査において第三者の立会いを認めるか否かの判断が極めて恣意的になされていることに鑑みれば、本件調査においても、Aの恣意的な判断によって第三者の立会いが排除されたといわざるを得ない。
(被告らの主張)
本件調査は、以下のとおり、合理的な必要性に基づいて行われたものであり、また、事前通知や調査理由の説明等は、いずれも税務職員の合理的裁量の範囲内で行われるものである。また、第三者の立会いについても、これを認めると税務職員の守秘義務に反するおそれがあることから、税務職員の合理的な裁量に委ねられているところ、本件調査においてAがこれを認めなかったことは、その合理的な裁量に反するものとはいえない。したがって、本件調査は、適法である。(一) 本件調査の経緯
Aは、被告八女税務署長の指示を受け、原告から提出された所得税確定申告書に記載された各年分の所得金額及び消費税確定申告書に記載された各課税期間の消費税の金額が適正なものであるか否かを確認するため、原告の自宅兼店舗に赴くなどして、以下のとおり本件調査を行った。
(1) 平成六年九月五日
Aは、税務調査のため、右同日午前一〇時ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、原告に所得税及び消費税の調査のために訪れたことを告げたが、原告が

忙しか。帰れ

と言って税務調査に応じようとしなかったので、さらに原告に都合のいい日を尋ねたところ、原告からこっちから連絡すると言われたため、今週中に連絡を下さいと要請した。これに対し、原告がそげんこつは分からんと答えた上、

戦おうたい。どこかおかしかとこのあったつか

と税務調査の理由を聞いてきたため、Aは、確定申告が適正になされて
いるか否かを確認したいことなどを告げた上、都合のいい日を同月九日までに連絡してくれるよう再度要請した。しかし、原告が

分からん。こっちから連絡する

などと言うのみであったため、Aは、原告に対し、連絡がない場合はこちらから連絡する旨告げて退去した。
(2) 平成六年九月一六日
その後、原告から何の連絡もなかったため、Aは、右同日午後三時半ころ、再び原告の自宅兼店舗を訪問したが、原告が不在であったため、在宅していた原告の妻に対し、同月二一日午前一〇時に再度訪問する旨を記載したお願いと題する文書を手渡して退去した。
(3) 平成六年九月二〇日
原告は、右同日、本件調査とは別の用件で八女税務署を訪れた際、Aに対して同月二一日は都合が悪い旨を申し出たが、Aから代わりの都合のいい日を早めに連絡してくれるようにとの要請に対しては、

こっちから連絡する。そっちの早めとこっちの早めは違う

と言って退去した。(4) 平成六年九月二八日、二九日
その後、原告から何の連絡もなかったため、Aは、右二八日、原告に電話を掛けて調査日程を打ち合せたい旨を告げたが、同日八女税務署に来署した原告と同年一〇月六日午前一〇時に税務調査をする旨を合意した。しかし、その後、Aは、右日時の都合がつかなくなったため、同年九月二九日、原告に電話を掛けて調査日時を同年一〇月七日午前一〇時に変更する旨申し入れ、原告の了承を取り付けた。(5) 平成六年一〇月七日
Aは、右同日午前一〇時ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、原告の案内で本件倉庫に入ったが、本件倉庫内には書類が数冊積まれた机があり、その周りに並べられた椅子には、既に一〇数名の者が着席していた。Aは、原告に勧められて本件倉庫の最も奥の席に原告と向かい合って着席し、原告に身分証明書及び質問検査証を示
して所得税及び消費税の調査を行う旨を告げた後、調査に関係のない第三者を立ち退かせるよう要請したが、原告は、調査理由の開示と調査への第三者の立会いを求め、右要請に応じなかった。そこで、Aは、調査理由は同年九月五日に説明したとおりであること、調査における第三者の立会いはAに守秘義務があるため認められないことを説明したが、原告は、第三者の立会いを認めないのは憲法に違反しているなどと言って納得しなかった。Aは、その後も約一時間にわたり税務調査に応じるように原告を説得したが、原告が

立会いが認められんなら調査は受けられん。裁判までいくつもりやけん

と言って税務調査に応じようとせず、また、この間に本件倉庫の立会人の人数は二〇数名に増えていたので、やむを得ず、再度訪問する旨を告げて退去した。(6) 平成六年一〇月一三日
Aは、右同日午前九時半ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、原告に対して税務調査に関係のない第三者の立会いのない状態で税務調査に応じるよう説得したが、原告が

それには応じられない。調査理由にも納得しない

と言って右説得に応じなかったので、さらに調査理由について事業規模から見て所得金額等がどうかということもあると説明したものの、原告は、

結局、所得の確認ということやっか

と言って納得しなかった。そして、Aは、両年課税期間の消費税の仕入れ税額控除について、同月七日のような状態では帳簿等を提示されたことにはならず、帳簿等の提示がなく仕入れ税額の確認ができない場合は仕入れ税額控除が認められない旨を説明し、原告に法三〇条のコピーを手渡した。しかし、原告が

(帳簿等を)見れち言いよるじゃないか。立会いは行う。因縁つけに来たつか

などと言って税務調査に応じることを拒否する態度を示したため、Aは、調査に応じてもらえないとやむを得ず独自で調査を進めざるを得なくなりますと告げて退去した。(7) 平成六年一〇月一八日
Aは、右同日午前九時半ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、原告に仕入れ税額控除について同月一三日の際の説明と同様の説明をしたが、原告が

立会いは呼ぶ。立会いの話ならせん。帰って下さい

と言ってそれ以上の話し合いに応じなかったので、やむを得ず退去した。
(8) 平成六年一〇月二八日
その後、原告から何の連絡もなかったため、Aは、原告の取引先等の調査に着手し、右同日、税務調査のために原告の取引先である大牟田信用金庫α支店を訪れた。その際、原告は、Aが同支店次長と対応しているところに突然来て、

おいこら、A。勝手にするな

などと怒鳴って税務調査の進行を妨げた。また、原告は、原告の取引先である株式会社東洋社宛の被告八女税務署長の照会文書を勝手に回収するなどの調査妨害を行った。
(9) 平成六年一二月一三日
原告は、右同日午前九時四五分ころ、税務調査への協力を要請するため原告の自宅兼店舗を訪問したAに対し、

お前は何ばしよっとか。営業妨害だ

と怒声を浴びせ
、さらには、第三者の立会いのない状態で帳簿等を提示するようにとのAの要請にも

見せよっやっか。見せとる

などと大声で三、四回繰り返して応じなかった。また、Aが原告が勝手に回収した株式会社東洋社との取引内容の提示を求めたところ、原告が

公文書ちゅうて脅しをかけてから。営業妨害だ

と言ってこれに応じようとせずに、

営業妨害。営業妨害

と数回怒鳴ってAを戸外に押し出したので、Aは、やむを得ず退去した。
(10) 平成六年一二月二〇日
Aは、右同日午前一〇時ころ、税務調査への協力を要請するため原告の自宅兼店舗を訪問し、原告に

再度、調査のお願いに来ました

と告げた。これに対し、原告は、

お前は何ば言いよっとか。調査は受けん。立会いなしでは受けんち言いよろうが。営業妨害

などと言いつつ入口のところでも結構ですのでと言うAに体を押しつけて、さらには外へ出ろと言ってAを追い出して中から鍵を掛けた。このため、Aはやむを得ず退去した。
(11) 平成七年一月六日
Aは、右同日、原告が八女税務署に来署して本件調査に関する被告八女税務署長宛の請願書を提出するとともに、Aに対し、調査日程を決めたいと申し入れ、さらには、同月九日にも電話で同月一一日一〇時に本件倉庫で調査を受けたい旨を連絡してきたため、これを了承した。
(12) 平成七年一月一一日

Aは、右同日午前一〇時ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、本件倉庫に入ったところ、原告、その妻及びCが待っており、机の上に書類の入った段ボール箱が置かれていた。Aが着席したところ、原告から、帳簿等を保存しているのに仕入れ税額控除を認めないのは消費税の二重取りであると主張されたため、Aは、帳簿等の内容の確認ができなければ仕入れ税額控除はできない旨を説明した。その後、原告が、請求書を用意しているのでそれを見るように言ってきたので、Aは、所得税と消費税の調査を効率よく行うためには収支計算書、買掛帳等の帳簿を確認する必要があると考え、

収支計算書を見せて下さい。買掛帳はないんですか

などと帳簿の有無等について質問したが、原告から

帳簿は探しておく。仕入れの請求書から先に見るように

と再度言われたため、仕入れの請求書から先に見ることとし、原告に対して第三者であるCに席を外してもらうよう告げた。これに対し、原告が

立ち会ってもらう。(Cは)記帳補助者たい。我々仲間は、みんな記帳補助者と思っとる

などと発言してこれに応じなかったため、Aは、Cは税務調査とは関係のない第三者に当たることを説明し、Cを立ち退かせるよう原告を説得したが、原告がこれを強く拒んで譲らなかったため、結局、帳簿等の内容については確認できなかった。そして、一時間以上このようなやり取りが続いたため、Aは、これ以上は調査の進展が見込めないと判断し、やむを得ず、立会いを呼ばないということであれば連絡して下さいと告げて退去した。(13) 平成七年一月二六日及びその後の経緯
その後、原告から何ら連絡がなかったため、Aは、数回にわたり原告方へ電話をして連絡方を依頼していたところ、右同日、原告から電話があったので、第三者の立会いなしで税務調査を受ける意思があるか否かの確認をしたが、原告からは第三者の立会いなしでの税務調査には応じられないという回答であったため、原告に近々税務調査の結果を知らせるために原告の自宅兼店舗を訪問する旨を告げた。そして、Aは、同年二月二日午前一一時四五分ころ、上司であるD統括国税調査官とともに原告の自宅兼店舗を訪問し、原告に税務調査の結果を示した上、修正申告に応じるか否かを確認したところ、原告は、

修正に応じる気はない。裁判で争う

と答えた。その後、本件各処分に至るまでの間、原告からの連絡は一切なかった。(二) 本件調査の必要性等
(1) 本件調査の必要性
Aは、前記(一)記載のとおり、原告の自宅兼店舗に赴くなどして本件調査を行ったものであるが、本件調査は、原告から提出された所得税確定申告書に記載された各年分の所得金額及び消費税確定申告書に記載された各課税期間の消費税の金額が適正なものであるか否かを確認するために行われたものであり、合理的な必要性のあるものであった。
(2) 本件調査の態様等
法六二条は、所得税法二三四条と同様に、消費税について調査の権限を有する税務職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事実に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、調査の一方法として、同条各号に定める者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他その調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段
の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、これを権限ある税務職員の合理的な選択に委ねており、調査の実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知などは、質問検査を行う上で法律上の一律の要件とされているものではない(最高裁昭和五四年(行ツ)第二〇号同五八年七月一四日第一小法廷判決・訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。これを本件について見るに、Aが本件調査に先立って事業規模から見て所得金額等が適正か否かの確認をするという調査理由について説明していること、調査の実施の事前通知については、これを行えば多数の第三者が押し寄せて円滑適正な調査が実施できないおそれがあったこと、前記(一)記載のとおり、Aが原告に対して再三にわたり帳簿等の提示要求や調査への協力要請を行ったにもかかわらず、原告が調査に関係のない第三者の立会いに固執して一切の調査協力が得られなかったため、これ以上説得を続けても原告から帳簿等の提示を受けて調査をすることはできないと判断して反面調査を中心に税務調査を進めたことに照らすと、本件調査は、いずれもAの合理的な選択の範囲内で行われたものであって、何ら違法な点はないとい
うべきである。
(三) 税務調査における第三者の立会い
(1) 第三者の立会いと税務職員の合理的選択及び守秘義務等
前記(二)(2)記載のとおり、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている。また、税務職員には当然に守秘義務が課されているところ(国家公務員法一〇〇条一項)、その違反について、法六九条や所得税法二四三条では、国家公務員法一〇〇条一項の一般規定よりも重い罰則が設けられており、ここにいうその事務に関して知ることのできた秘密とは、税務調査に関連して得られた納税者その他の私人の秘密を意味するものと解されている(最高裁昭和四八年(あ)第二七一六号同五二年一二月一九日第二小法廷決定・刑集三一巻七号一〇五三頁参照)。これは、税務職員が税務調査等の税務事務に関して知り得た納税者自身や取引先等の秘密
を保護することにより、納税者が税務当局に対して事業内容や収支の状況を自主的に開示・申告したり、税務調査に納税者や取引先等が協力しても、税務職員によってこれが公開されないことを保障して、税務調査等の税務事務への信頼や協力を確保し、納税者や取引先等の真実の開示を担保して申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保することを目的としているというべきである。そこで、これを前提として税務調査の際に第三者の立会いを認めるべきか否かについて検討するに、税務調査において、納税者が税理士以外の第三者の立会いを求める権利を有する旨を定めた法令の規定はないこと、税理士の資格を持たない第三者の立会いは、その具体的態様如何によっては税理士法違反の余地があること、税務調査の際には調査の内容が納税者のみならず、その取引先の営業上の秘密に及ぶ可能性が高く、第三者の立会いを認めると右税務職員の守秘義務に反するおそれがあることなどからすれば、税務調査の際に第三者の立会いを認めるか否かは、税務職員の合理的選択に委ねられているというべきである。したがって、税務職員が第三者の立会いを認めなかったことをもって直ちに違法となるというべきではなく、それが社会通念上著しく相当性を欠き、裁量権の濫用に当たるといえるような特段の事情がない限り、違法とはいえないと解すべきである。そして、税務調査においては、①納税者本人による自主的な陳述、②税務職員による質問及び納税者が作成した帳簿及び資料等の開示要請、③それらの事項に対する納税者の陳述などが交錯し、反復していくものであるところ、そのような調査のやりとりにおいては、納税者及び取引先等の秘密に属する事項とそうでない事項が混在することは必至である。このような税務調査の実態に鑑みれば、第三者の立会いの可否を調査事項の都度判断することは、適正・公平な課税を実現するために認められている質問検査権の円滑な行使を妨げることになるため、税務職員が付与された調査方法に関する裁量権を行使するにあたり、原則として第三者の立会いを認めない措置を講じることもやむを得ないところである。
これに対し、まず、原告は、納税者自身が第三者の立会いを望んでいる以上、自らその秘密の開示を容認しているのであって、納税者自身の秘密の保護は問題になり得ない旨主張する。しかし、前記のとおり、税務職員に対して守秘義務が課されている根拠が、納税者等の秘密保護にとどまらず、納税者や取引先等の真実の開示を担保して申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保するという、いわば公益目的を図ることにもあることからすれば、納税者自身が税務調査における第三者の立会いに同意しているとの一事をもって納税者自身の秘密の保護は問題にならないと解することは極めて困難である。次に、原告は、取引先の秘密について、税務調査に税務職員と納税者だけが立ち会った場合でも、納税者には守秘義務はないのであるから、税務調査の過程で納税者に明らかになった納税者の取引先の秘密は外部に洩れるおそれがあり、税務調査に第三者が立ち会うことによって初めて生じる問題とは考えられない旨主張する。しかし、納税者は、税務調査の過程で、自らが知悉している取引先の秘密を税務調査に立ち会っている第三者に漏らすことがあり得るが(なお、そのことによって、私人といえども民事上の損害賠償責任を負う場合もあることに留意すべきである。)、そのような漏洩が税務調査の過程で発生するとすれば、守秘義務の観点から極めて問題であることは明らかであって、原告の右主張は失当である。
もっとも、税務調査において、納税者自身が税務又は会計の分野に明るくなく、右分野の専門知識を有する経理担当者らに帳簿等の記帳事務の処理を委ねて自ら記
帳に携わっていなかったため、税務職員の質問検査に対して適切かつ十分な返答ができない場合がある。このような場合に、税務職員が帳簿等の記帳内容について聴取する必要があると判断したときは、記帳を現実に担当している者を必要な限度で税務調査に立ち会わせて説明を求めることは当然に予想されるところであるが、このような措置は、税務職員が個別の税務調査の目的達成のため必要かつ適切と判断して、税務調査に関する裁量権の範囲内において実施するものである。また、商工会議所等の専門担当税理士や顧問税理士及び職員が、税務指導の一環として、小企業納税者の記帳代行や継続指導を行う場合があり、この場合、納税者には記帳能力に乏しい者も少なくないことから、税務職員は、税務調査において適切かつ十分な情報を得るために、記帳代行や継続指導を行った右税理士等を税務調査に立ち会わせて説明を求めることがある。これも、税務職員が自らの裁量に基づき、合理的な調査の一環として実施するものである。
(2) 本件
調査における第三者の立会い
平成七年一月一一日の調査においてCが立ち会おうとしていたところ、Aが現認した段ボール箱の中の書類が帳簿等であったとすれば、Aは右帳簿等に関する事項について原告に質問し、これに原告が応答することになる。しかし、右の質問及び応答には、納税者である原告自身の秘密はもちろん、原告の取引先等の秘密も含まれることが予想され、このような取引先等の秘密を含む事項に関する質問及び応答をCの立会いの下で行うことは、Cに対してこれらの秘密を漏らすことになるばかりか、右守秘義務を課されていないCを通じて右秘密が外部に洩れるおそれもあることになる。また、原告は、経理及び税務について相当の知識を有する者と認められる一方、Cは、原告の申告にあたって原告に指導、助言していた状況は窺われるものの、直接原告の記帳事務に関与した形跡は認められず、Aが原告の帳簿等の調査についてCの同席を求めなければならない必要性はなかったものである。したがって、税務職員としての守秘義務を有するAが右調査に際して再三にわたり第三者であるCの退席を求めたこと及びこれが容れられなかったために段ボール箱の中の書類を確認しなかったことは、いずれも合理的な裁量の範囲内に属するものであって、Aの右措置が適法であることは明らかである。
2 本件各処分における違法性の有無
(原告の主張)
本件各処分は、それ自体に次のとおりの違法性があり、取り消されるべきである。
(一) 法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意義
法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、以下に述べるとおり、帳簿等が物理的に保存されていることを意味するものと解すべきである。(1) 租税法律主義の要請
憲法三〇条及び八四条は租税法律主義を規定しており、租税法規の解釈は文理解釈によるべきであって、国民に不利益な形での拡張解釈は許されない。しかるに、被告らは、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、税務調査等のために税務職員等により適法な提示要求がされたときはこれに直ちに応じることができる状態での保存を意味すると主張する。しかし、法は保存(法三〇条)と提示(法六二条四項、六八条二号)とを明確に使い分けて、保存と提示とは文理上明らかに異なる概念であるから、被告らの右解釈は、拡張解釈として租税法律主義に違反するものである。
また、租税法律主
義によれば、課税要件は明確でなければならないところ、法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意味を被告らのように解すると、この帳簿等を保存の有無、すなわち、税務調査等のために税務職員等により適法な提示要求がされたときにこれに直ちに応じたか否かの判断を税務職員等に委ねることになるが、それでは課税要件の要件事実としては極めて明確性を欠くことになり、明らかに不当である。(2) 消費税の本質と仕入れ税額控除
消費税の累積排除は、付加価値税たる消費税の根本理念であり、また、その本質であって、税制改革法一〇条二項もその趣旨を確認している。したがって、消費税の累積排除のために仕入れ税額控除を認める法三〇条一項こそが消費税徴収の原則的規定であり、その適用を否定した法三〇条七項は消費税の累積を行う例外的規定であるから、その適用は、極めて厳格に解されるべきである。仕入れ税額控除を否認することは、消費税の二重取りになることに留意しなければならない。
(3) 申告納税制度と仕入れ税額控除
法が採用している申告納税制度の下では、消費税額は第一次的には納税者の申告により確定するところ、これを正確に算定するには、納税者が適正に仕入れ税額を控除していることが不可欠であり、その資料として帳簿等が必要となる。そこで、法三〇条七項は、帳簿等が存在しない場合には、仕入れ税額控除を規定した法三〇条一項を適用することができないとしたのである。法三〇条七項の趣旨を申告納税制度との関連でこのように解すれば、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、文字どおり、納税者の手元に帳簿等が物理的に保存されていることを意味することになる。確かに、申告納税制度の下にあっても、例外的に納税者から申告がない場合又は申告が法令に従ってなされていない場合等には、税務職員による質問検査権の行使が行われ、税務署長による更正がされ得る。しかし、これは最終処分ではなく、納税者の納税額は、その後の不服審査及び訴訟という一連の手続を通じて最終的に確定されるのである。したがって、この帳簿等を保存の有無も、このような一連の手続の中で確認されれば足りるのである。
これに対し、被告らは、右一連の手続の中から税務職員による質問検査権の行使だけを取り出し、質問検査権の行使に際して帳簿等が存在していてもその提示がなければ仕入れ税額控除は認めないというが、かか
る主張は、質問検査権を絶対視する質問検査権至上主義ともいうべきものであり、右に述べた申告納税制度の本来の趣旨とは相容れないものである。また、被告らの主張によれば、この帳簿等を保存の確認の主体は税務調査を担当した税務職員に限られることになってしまい、税務調査の際に税務職員が帳簿等の存在を確認できなかったという事実が税務署長から主張立証されると、もはや課税仕入れの事実の有無や帳簿等の保存の有無について裁判所の司法判断を経ないまま、一切仕入れ税額控除が認められないという帰結をもたらすことになる。このような重大な法的効果をもたらす以上、その旨が法に明記されなければならないが、法の規定からこのような効果をもたらす解釈を導くことはできない。
(4) 青色申告承認の取消に関する判例との比較
被告らは、所得税の青色申告承認取消に関して確立した判例である、税務職員の適法な提示要求に対して正当な理由なく帳簿書類の提示を拒否した場合には、所得税法一五〇条一項一号にいう帳簿書類の保存がない場合に該当するということをもって自らの解釈の補強をしているが、所得税の青色申告承認取消に関する右判例については、大いに疑問があるとして従前から厳しい批判にさらされていたところであり、近時の裁判例においては、租税法律主義の趣旨、精神を踏まえて右解釈を再検討する機運がある。また、所得税の青色申告承認の取消は、承認に伴う特典が得られなくなるという意味での不利益処分にすぎないのに対し、消費税の仕入れ税額控除の否認は、場合によっては、納税者に対して納税者の事業から得られる所得を遥かに上回る高額の税額を課す結果をもたらすから、両者を同列に論じられるものではない。
(二) 本件各処分の違法性
前記1(一)記載の本件調査の経緯によれば、原告は、平成七年一月一一日の税務調査の際、本件倉庫の中の机の上に売掛帳等八冊及び請求書数冊の束を、その周りにはそれ以外の請求書や仕入伝票等が入った段ボール箱一〇箱くらいを積み上げ、関係書類を全部用意してどうぞ見て下さいとAに調査を促し、この次は仕入れ帳を探しておきましょうなどと述べているのであるから、帳簿等を物理的に保存していたことはもちろん、さらには進んで提示まで行って本件調査に積極的に協力を示していたことは明らかである。したがって、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、その文言どおり物理的な保存を意味するところ、原告は、本件調査当時、帳簿等を適正に保存していたものであり、仮に帳簿等を保存を被告ら主張のように解したとしても、本件調査に際してAの求めに応じて帳簿等を提示しているのであるから、法三〇条七項を適用して仕入れ税額控除を全面否認したことは違法であり、これを前提とした両年課税期間についての過少申告加算税賦課決定も違法である。また、平成三年課税期間についても、帳簿の提示がないことから卸売業者であることが確認できないとして、卸売業者以外の業者に適用する割合を乗じて課税仕入れ等の税額を計算すべきであるとの被告らの主張も失当である。
(被告らの主張)
本件各処分は、いずれも適法である。
(一) 法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意義

法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、以下に述べるとおり、税務調査等のために税務職員等により適法な提示要求がされたときはこれに直ちに応じることができる状態での保存をいうと解すべきである。(1) 消費税における申告納税制度と税務職員の質問検査権
法が採用している申告納税制度(四五条等)の下では、適性かつ公平な徴税のために、納税者の申告内容の正確性を的確に把握する必要があるので、法は、税務職員に質問検査権を認めている(六二条)。そして、税務職員が質問検査権を行使して、単に物理的に帳簿等が保存されていることが確認されても、それだけで仕入れ税額控除が認められるものでないことは当然であり、税務職員が保存されている帳簿等を調査し、その結果と申告書類及び計算明細書の記載内容とが一致していることを確認してから仕入れ税額控除が認められることになる。そうすると、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、単なる物理的な帳簿等の保存をいうのではなく、税務職員による適法な帳簿等の提示要求に対し、その保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態におくことも含むというべきである。また、特に消費税の場合、消費税が一般消費者からの預り金的性質を有すること、即時控除方式が採用されており不正還付の蓋然性が高いこと、インボイス方式ではなく帳簿方式を採用していることから、申告内容の正確性担保のため税務調査の重要性が極めて高いことになる。そこで、税務職員が帳簿等の記載内容の正確性を確認するために、必要に応じ、当該帳簿等に記載された取引先等における調
査を行うことになるが、不服審査や訴訟の各手続段階で帳簿等が提示されても、既に取引先等の調査対象者における資料や記憶が失われ、課税仕入れの事実の調査ができない結果が生じてしまうことになる。これでは、税務調査により申告内容の正確性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうのであって、このような不合理を法が予定しているとは解されない。したがって、帳簿等については、不服審査や訴訟の各手続段階に先立つ税務調査時に税務職員に対して提示することが求められていると解され、不服審査や訴訟の段階で初めて帳簿等が提示されても、もはや仕入れ税額控除は認められないと解すべきである。
(2) 条文の規定の仕方
法三〇条八項及び九項は帳簿等の記載事項を厳格に規定しているが、これは、税務職員が帳簿等によって正確かつ迅速に広い範囲の申告内容を確認し、効率的な税務調査を実現することを目的としたものであると解される。また、令五〇条一項は、帳簿等の保管場所を納税地等に限定し、その保存期間を、帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間と規定している。これは、帳簿等に基づき更正等をなし得る最長期限である七年間と完全に符号する(国税通則法七〇条五項参照)から、右規定は、帳簿等の保存が、消費税の確定申告後の税務調査を念頭に置き、これに対応して提示されることを予定していると解するのが自然である。
(3) 青色申告承認の取消に関する判例
所得税法は、青色申告者が帳簿書類を備え付け、記録かつ保存しなければならない旨(同法一四八条一項)、これが行われていない場合に税務署長が青色申告の承認を取り消すことができる旨(同法一五〇条一項一号)を規定している。そして、右各規定にいう保存の意義については、税務職員の適法な提示要求に対して正当な理由なく帳簿書類の提示を拒否した場合には所得税法一五〇条一項一号にいう帳簿書類の保存がない場合に該当するとの判例が確立しているところ、右解釈は、法三〇条七項の解釈についても妥当するというべきである。所得税法は、青色申告者の所得金額計算についての資料を帳簿書類に限定してその記載方法を規定するとともに、青色申告者に対して帳簿書類を整理した上で原則的に七年間納税地等に保存することを要求して
いるが、これは、前記(2)で述べた消費税における条文の規定の仕方及びその趣旨と一致しているのであり、両者を別異に解するのは奇異である。(4) 帳簿等を保存を物理的保存と解した場合の不合理性
法三〇条七項にいう帳簿等を保存を原告主張のように物理的保存と解すると、納税者が単に帳簿等を物理的に保存しているが、これを税務調査の際に提示しない場合には、納税者の申告内容をそのまま是認せざるを得ないことになる。そうすると、右納税者は、法三〇条八項及び九項所定の記載事項に従わない記載方法を採っていても、さらには、全く保存をしていなくても、帳簿等の提示を拒否し続けていれば、税務署長は仕入れ税額控除を否認することはできないため、更正を免れ
ることが可能となる。すなわち、消費税の申告について更正ができる期間は原則としてその更正に係る消費税の法定申告期限から三年であるから(国税通則法七〇条一項)、右三年間納税者が帳簿等を提示しなければ、税務署長は帳簿等の保存がないことを理由として更正をすることができず、結果として右納税者が仕入れ税額控除を受けられる地位が確定することになる。かかる事態が、税務調査の際に帳簿等を提示した結果、法三〇条七項、八項又は九項に反する等として仕入れ税額控除を否認されて更正を受けることになる納税者との衡平を欠くことは明らかである。 他方、税務署長は、税務調査において帳簿等の物理的保存が確認できないときにもなお仕入れ税額控除を否認して更正をすべきものとすると、将来の不服審査や訴訟において右帳簿等が提出され、右更正が取り消される可能性も大きいことを十分に認識した上で、帳簿等の保存がないものとして仕入れ税額控除を否認して更正をしなければならない。しかし、このように、更正の効力を将来の不服審査や訴訟において確実に覆滅せる権利を納税者に委ねることは、課税関係の安定を著しく害することになるし、その必要性もない。これに対し、納税者が税務職員の税務調査における適法な提示要求に対して帳簿等を提示することは、帳簿等を整理して保存していれば極めて容易なことである。また、右解釈を採ると、本来、不服審査や訴訟においては、控除すべき仕入れ税額や更正時に帳簿等の保存があったことの立証方法を帳簿等に限定する合理的理由はないはずであるから、税務調査の際に帳簿等を提示せずかつ不服審査や訴訟において帳
簿等を提出しない場合でも、それ以外の方法で課税仕入れの存在等を立証すれば、仕入れ税額控除が認められることになる。しかし、これでは、法三〇条七項が仕入れ税額控除を適用しない要件として帳簿等を保存を規定した意味が全くなくなり、不合理である。
また、原告は、法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意義を被告ら主張のように解した場合には、この帳簿等を保存の確認の主体は税務職員に限られることになって不合理である旨主張する。しかし、課税処分の適法性については不服審査及び訴訟においてこれを争うことができるところ、この帳簿等を保存の意義について被告らのように解したとしても、帳簿等についての税務職員の適法な提示要請に対して納税者が応じたか否かという帳簿等を保存の概念の中核的な事実関係が右不服審査や訴訟における審理の対象とされるのであるから、右主張は失当である。
(5) 租税法律主義との関係
原告は、法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意義についての被告らの主張は、租税法律主義から導かれる租税法規の厳格解釈の原則に照らして許されない旨主張する。しかし、租税は納税者である国民に対して対価なくして財産的出捐を余儀なくするものであるから、租税制度に対する国民の信頼を確保する上で、国民の間の負担の公平が要請されることになるが、これは、経済関係における法の下の平等を保障した憲法の要請でもある(同法一四条一項)。したがって、租税法規の解釈にあたっては、右納税者の負担の公平の保障の観点から、租税法規制定の趣旨、目的に照らし、若干規定の文言を弾力的に解釈することも許容されているというべきである。また、法規の解釈にあたっては、他の法令や同一法令中の他の規定との関係に留意し、法秩序全体としての調和を図るようにすべきであって、このことは租税法規の解釈にも当然に当てはまる。そうすると、前記のとおりこの帳簿等を保存の意義について原告のように解釈した場合には国民の税負担につき不公平を招くおそれがあること、消費税が一般消費者からの預り金的性格を有しているため、税務当局としてはその金額を正確に把握する必要性が高い一方、法が申告納税制度を採用した結果不正還付の可能性も高く、税務調査が極めて重要であることからすると、この帳簿等を保存の意義に適法な税務調査の時点での提示の意味を含めて解さなければ、税務
調査によるチェックを企図した法の趣旨が没却されてしまうことになる。被告らの解釈こそ、法の正当な解釈であるというべきである。
また、原告は、租税法律主義からは課税要件の明確性の原則も導かれるが、この帳簿等を保存の意義についての被告らの主張は課税要件の明確性の原則に反する旨主張する。しかし、この帳簿等を保存の意義につき被告らのように解したとしても、適法な提示要求に対する納税者の提示拒否の有無の判断が裁判における通常の要件事実の認定作業の域を超えるものでないことは明らかであるから、被告らの右主張は、課税要件の明確性の原則に反するものでもない。(二) 本件各処分の適法性

法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、単なる物理的な保存ではなく、税務調査等のために税務職員等により適法な提示要求がされたときはこれに直ちに応じることができる状態での保存と解すべきである。そして、本件調査は前記1で主張したとおり適法であって、Aが数回にわたり原告方に赴き、守秘義務の観点からその都度第三者の立会いのない状態で税務調査に協力して欲しい旨を要請し、帳簿等の提示を要求したことは、適法な提示要求である。これに対し、原告は、C等の第三者の立会いの下でなければ調査に協力しないとの態度に終始し、税務調査に一切協力せずに帳簿等の提示を拒否したのであるから、法三〇条七項にいう帳簿等を保存しない場合に該当することになり、両年課税期間について仕入れ税額控除を否認した被告八女税務署長の措置は、適法である。
次に、平成三年課税期間について、原告が簡易課税の適用を受ける旨を届け出ているので、課税標準額に対する消費税額に一定割合を乗じた額を課税仕入れ等の税額とみなして控除することになるが、右計算において乗じる一定割合は、卸売業者は一〇〇分の九〇、それ以外の事業者は一〇〇分の八〇となっている(法三七条一項、令五七条一項)。そこで、本件においては、原告が平成三年課税期間の帳簿等を提示していないので、原告を卸売業者と確認することができない結果、右課税仕入れ等の税額の算出において、課税標準額に対する消費税額に卸売業者以外の事業者に対して適用する割合である一〇〇分の八〇を乗じるべきである。 さらに、本件において、原告から帳簿等の提示がなく、実額による計算ができないため、被告八女税務署長は、仕入れ先の調査等に基づ
いて把握した原告の各年分の仕入れ金額を基に原告と事業規模、形態の類似した同業者の平均仕入れ原価率で割り戻して推計した各年の事業所得の総収入金額を消費税の税込みの課税資産の譲渡の対価とした。そして、この総収入金額に一〇三分の一〇〇を乗じた額を両年課税期間の課税標準額として、消費税額を算定したものである。
これらの計算によると、原告の納付すべき税額は別表五記載のとおり各課税期間のいずれにおいても別表二及び三記載の額を上回っており、また、両年課税期間については原告に対して過少申告加算税を賦課すべき要件を満たしているから、本件各処分は、適法である。
3 慰謝料請求
(原告の主張)
本件調査及び本件各処分は違法であり、これらによって原告は精神的損害を被ったが、その慰謝料としては金一〇〇万円が相当である。
(被告国の主張)
本件調査及び本件各処分は適法であり、原告の慰謝料請求は理由がない。第三 当裁判所の判断
一 本件調査の経緯
証拠(甲六の1ないし3、八、一一、乙四の1ないし3、九ないし一一、二二、証人A、C、D及び原告本人(ただし、甲八、一一、一四、証人C及び原告本人については後記認定に反する部分を除く。))によれば、以下の事実が認められ、証拠(甲八、一一、一四、証人C及び原告本人)中この認定に反する部分は証拠(乙九、二二、証人A及びD)と対比したときすぐには採用することはできず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
1 本件調査の端緒
八女税務署個人課税第二部門のDは、Aに対し、本件調査に先立ち、原告について税務調査を行うように指示した。右指示は、原告が提出した確定申告書の所得金額欄には記載があったが、収入金額欄及び必要経費欄には記載がなかったこと、確定申告書に添付して提出が義務づけられている所得税法一二〇条四項に規定する収支内訳書が添付されていなかったこと、原告は昭和五一年に事務用品類の納品業を独立して行うようになり、昭和六〇年からは現在地で営業を行うようになったが、その開業以来平成六年に至るまで一度も税務調査を受けたことがなかったことから、Dが原告の申告内容の正確性を調査する必要があると判断して行われたものであった。
2 平成六年九月五日
Aは、右指示を受けて、右同日午前一〇時ころ、原告に事前に通知することなく税務調査のために原告の自宅兼店舗を訪問した。このように事前に通知をしなかったのは、Aが過去に原告が会長の地位にある八女民商と同じ民主商工会の会員の税務調査をした際、多人数が税務調査に押し掛けて第三者の立会いや調査
理由の開示を求めたりして税務調査が円滑に行かなかった経験から、事前に通知をしない方がよいと判断したためであった。Aは、原告に所得税及び消費税の調査のために訪問したことを告げたが、原告はこの調査に応じようとはしなかった。そこで、Aが原告に都合のいい日を尋ねたところ、原告がこっちから連絡すると答えたため、Aは、原告に対し、同月九日までに都合のいい日を連絡してくれるように頼んだ。その際、原告がAに対して調査の理由を聞いてきたため、Aは、確定申告が適正になされているかを確認する必要があること、また、原告について長年調査をしていないことを説明した。
3 平成六年九月一六日
その後、原告から何の連絡もなかったので、Aは、右同日午後三時三〇分ころ、再び原告の自宅兼店舗を訪問したが、原告が不在だったため、原告の妻に同月二一日に原告の自宅兼店舗を訪問する旨と都合が悪いときの連絡を記載したお願いと題する文書を渡してその旨原告に伝えるように依頼し、原告は、帰宅後、妻からその旨告げられるとともに右文書を見た。
4 平成六年九月二〇日
原告は、右同日、八女民商の会員多数とともに八女税務署に来署した際、Aに対し、

二一日は都合が悪い。こっちから連絡する

と調査日の変更を申し入れ、その際、Aが早めに都合のよい日を連絡するように要請したのに対し、

こっちから連絡する。そっちの早めとこっちの早めは違う

と言うのみで、具体的な日を告げることはなかった。
5 平成六年九月二八日
その後、原告から連絡がなかったので、Aは、原告に対し、右同日朝、電話をして調査日程を調整したい旨告げたところ、原告が八女税務署に来署して六日にして欲しいと希望を述べたので、同年一〇月六日に税務調査を行うことを決めた。しかし、その後、Aがその都合から日程変更を申入れたので、結局、同月七日午前一〇時に税務調査を行うことが決まった。
6 平成六年一〇月七日
Aは、右同日午前一〇時ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、原告から本件倉庫に案内された。本件倉庫内には、長机が四脚並べられており、窓際の長机に書類が数冊が置かれ、また、長机の横には仕入伝票、納品書、領収書等が入っていると思われる段ボール
箱が一〇数個積み上げられ、八女民商の会員一〇数名がいた。Aは、所得税及び消費税の調査を行う旨を告げた後、調査に関係のない八女民商の会員に退席してもらうように原告に要請したが、原告は、調査理由の開示と右八女民商の会員の立会いを求め、右八女民商の会員の退席に応じようとはしなかった。Aは、大勢の前で調査理由を開示することをはばかり、調査理由については以前に原告に説明したとおりであること、また、第三者の立会いがある状態での調査は守秘義務が課されているため認めることができない旨を説明し、再三にわたって右八女民商の会員の退席を要請したが、原告は、

全部何でも打ち明けているから守秘義務はない。立会いを認めないのは憲法違反だ

などと言って右要請に応じなかった。その間に八女民商の会員は二〇数名くらいに増え、本件倉庫以外にも八女民商の会員がいるような状態になり、右八女民商の会員からも

調査理由を開示しないのはおかしい。なぜ自分たちがいてはいけないのか

との声が上がったので、Aは、このような状態では税務調査はできないと判断し、原告に改めて訪問する旨を告げて退去した。7 平成六年一〇月一三日
Aは、事前に税務調査の日程を原告と打ち合わせると、同月七日のように八女民商の会員が立ち会って税務調査を行えないことが予想されたので、同月一三日午前九時三〇分ころ、事前通知をせずに原告の自宅兼店舗を訪問し、第三者の立会いのない状態で税務調査に協力するよう要請した。しかし、原告は、立会いがない状態での調査には応じられない、調査理由にも納得していない旨を述べて、右要請に応じようとしなかった。そこで、Aは、原告の事業規模から見て申告された所得金額が適正であるかについて何らかの方法で確認する必要がある旨を説明したが、原告は納得しなかったので、法三〇条の条文のコピーを原告に手渡して、同月七日のような状態では帳簿等の提示があったことにはならないので、両年課税期間の仕入れ税額控除が認められない旨を教示した。そして、Aは、税務調査に応じてもらえないならば税務署が独自に原告の取引先等の調査をしなければならなくなる旨を説明したが、原告は、

調査には応じる。立ち会いの上で見れち言いよろうが。勝手に反面調査をしたらそれはそれで訴える

などと言った。
8 平成六年一〇月一八日
Aは、右同日午前九時三〇分ころ、税務調査への協力を要請
するために原告の自宅兼店舗を訪問し、仕入れ税額控除について帳簿等の提示がないと不利益になる旨を原告に説明したが、原告は、

立会いは呼ぶ。立会いなしの話ならせん

と述べて、第三者の立会いの下での調査を要求し、それ以上の説得には応じようとはしなかった。
9 平成六年一〇月二八日
その後、原告から連絡がなかったので、Aは、同月下旬から、原告と取引がある金融機関の調査を開始する一方、原告は、大牟田信用金庫α支店等に対して原告の税務調査があったら連絡をして欲しい旨を伝えていた。そして、右同日午後二時ころ、Aが大牟田信用金庫α支店を訪れて原告の税務調査のため右支店次長と応対していたところ、原告は、右支店に来て大声で、

おい、こら、A。勝手にするな。

などと怒鳴りつけて右調査を妨害した。このような状況での金融機関に対する税務調査が困難であったので、八女税務署から金融機関への協力要請をして最終的には金融機関に対する税務調査を終了した。また、原告の仕入先に対する反面調査については、八女市内の仕入先は実地に調査し、その他は文書照会による方法で実施したのに対し、ほとんどの仕入先からは一ないし二週間で照会に対する回答が寄せられたが、株式会社東洋社からの回答が遅れていたため、同年一二月初めに同社へ電話で催促したところ、

本人が自分のものであるから自分で回答するというので、照会文書を本人に渡した。本人から直接回答をもらってくれ

と言われた。そこで、Aは、後記のとおり、同月一三日に原告に会って事実を確認しようとしたところ、原告からの協力が得られなかったので、再度同社に電話で調査への協力を要請し、照会文書を再発送して回答をもらうことができた。
10 平成六年一二月一三日
Aは、右同日午前九時四五分ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、税務調査への協力を要請した。しかし、原告は、Aに対し、

お前は何ばしよっとか。営業妨害だ

と怒声を浴びせ、Aが第三者の立会いのない状態で帳簿等を見せるように要請すると、

見せよっやっか。見せとる

などと大声で三、四回繰り返した。また、Aが東洋社の取引に関する回答用紙を東洋社から受け取っているはずですがと言うと、原告は、

公文書ちゅう脅しをかけてから。営業妨害だ

と何度も怒鳴った。さらに、Aが帳簿等を見せるように要請すると、原告が、

営業妨害、営業妨害

と大声を出しながらAに近づいてきたので、Aは、これ以上の説得は無理と判断して退去した。11 平成六年一二月二〇日
Aは、右同日午前一〇時ころ、原告の自宅兼店舗を訪問し、再度税務調査への協力を要請した。これに対し、原告は、

お前は何ば言いよっとか。調査は受けん。立会いなしでは受けんち言いよろうが

と言ってAに体を押しつけてきた上、話をさせるようにとのAの言葉を遮り、営業妨害などと大声で言いながらさらに体を押しつけ、

外へ出ろ。調査は受けん

と言ってAを外に出して中から鍵を掛けた。
12 平成七年一月六日
原告は、右同日、本件調査について被告八女税務署長宛の請願書を提出するため八女税務署を訪問した際、Aに対し、調査日程を決めたい旨を申し入れた。そこで、Aは、原告と打ち合わせをして、同月一一日が一三日のいずれかで調査を行うことを了解し、電話連絡をするように原告に依頼した。そして、Aは、確定申告期が近づいているので早く調査を終了させたいと考え、できれば丸一日調査に時間を確保して欲しいことと第三者の立会いのない状態での調査を要請したが、原告は、

それは、そっちの言い分。うちの方で決める

と言って八女税務署を退去した。その後、調査日程については、原告から同月一一日に本件倉庫で調査を受けたい旨の連絡があり、Aもこれを了承した。
13 平成七年一月一一日
Aは、右同日、本件倉庫を訪問したところ、本件倉庫内には、原告、その妻及びCがいて、机の上には書類が入った段ボール箱が置かれていた。そして、原告がAに用意している仕入れに係る請求書を見るように要求したが、Aは、消費税と所得税の調査を効率的に進めるためには収支の全体を調査する必要があるので、

収支計算書を見せて下さい。それから帳簿も見せて下さい。課税売上も当然調べる必要があります

などと営業上の収支に関係する帳簿等の提示を原告に要請した。しかし、原告は、仕入れの方を先に見て欲しいと言うので、Aが買掛帳はないんですかと尋ねると、

帳簿は探しておくから、仕入れの請求書から先に見て欲しい

と再度要求して段ボール箱の中から伝票綴りのようなものを取り出し、Aの目の前でそれをめくって見せた。そこで、Aは、右伝票綴りのようなものをめくってみたものの、内容の確認はできなかった。その後、Aは、やむを得ず請求書綴りから先に見ることにし、原告に対して何時まで調査が可能か
を尋ねると、原告は、一二時までにして欲しい旨を述べた。そして、Aは、税務調査を開始しようとして原告にCの退席を要請したが、原告が

それはできない。C事務局長にはいろいろ相談しとる。記帳補助者たい

などと述べてこれに応じようとはしなかったので、さらに記帳補助者とは実際に記帳に携わってなければならない旨を説明したが、原告はなおもこれに応じようとはしなかった。その後もCを退席させるようにとの再三にわたるAの要請に原告が応じないまま約一時間が経過したため、Aは、税務調査ができないと判断して退去しようとしたところ、原告が請求書をこんなに用意してあると言うので、

それはわかっています。立会いがあるので見なかったということです。立会人を呼ばないということであれば連絡して下さい

と告げて退去した。なお、Cは、両年課税期間に係る原告の帳簿等の記帳に関与したことはなく、両年課税期間の原告が作成した集計表に記載の売上と申告書の各合計が合っているかをチェックしただけであった。
14 平成七年一月二六日及びその後の経緯
その後、原告から連絡がなかったので、Aは、数回にわたって原告宅へ電話をしたが、原告が不在であったため、原告の妻に対し、八女税務署へ連絡をするように依頼していたところ、右同日午前一一時ころ、原告から電話があった。そこで、Aは、原告に第三者の立会いなしで調査を受ける意思があるか否かを確認したところ、原告が立会いなしでの調査には応じられない旨回答したので、近々調査の結果を知らせるために原告の自宅兼店舗を訪問する旨を告げた。そして、Aは、平成七年二月二日午前一一時四五分ころ、Dとともに原告の自宅兼店舗を訪問し、これまでの調査結果を本人に説明した上で修正申告に応じる意思があるか否かを確認したが、原告は

修正に応じる気はない。裁判で争う

と返答した。その後、本件各処分に至るまでの間、原告からの連絡は一切なかった。
以上の事実が認められる。
ところで、平成六年一二月二〇日の事実認定に関して、原告は、Aに体を押しつけて無理矢理外に出したり、鍵を掛けたりはしていない旨陳述する(甲一一)。しかし、前記認定の、原告は税務調査には第三者の立会いが認められるべきであるという強い主張を繰り返し、第三者の立会いが認められなければ税務調査には応じられないという強い姿勢を有していた上に、Aが行った反面調査にも相当に腹を立てていた事実からすると、再三に渡って第三者の立会いがない状態での税務調査を要請していたAに対し、原告が体を押しつけてこれを自宅兼店舗の外に出して中から鍵を掛けて入れないようにするという行動をとることは自然であり、結局、証拠(乙九、証人A)により前記認定の事実を認めるのが相当である。原告の右陳述は、採用できない。
二 争点1(本件調査における違法性の有無)について
1 税務調査における質問検査権の行使について
法六二条が消費税に関する調査について必要があるときは質問検査権を行使しうる旨規定しているから、税務職員の恣意による調査が許されないことはいうまでもない。そして、この調査が申告納税制度を担保して適正かつ公平な課税を実現するための行政手続であることに鑑みれば、税務調査における質問検査権の行使には、犯則調査の場合のように申告内容が虚偽であるとの具体的嫌疑があることまでは必要としないが、税務職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、納税者の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、申告のない場合又は申告内容の正確性を審査すべき合理的必要のある場合には質問検査権を行使しうるものであり、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、右必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられていると解するのが相当である(最高裁昭和四五年(あ)第二三三九号同四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁、同昭和五四年(行ツ)第二〇号同五八年七月一四日第一小法廷判決・訟務月報三〇巻一号一五一頁参照)。したがって、税務調査が右合理的必要を欠く場合や、質問検査の範囲、程度、時期、場所等についての税務職員の措置が合理性を欠き、裁量権を逸脱するような場合には、税務調査が違法と
なるというべきである。
2(一) 本件調査の必要性の有無について
前記認定のとおり、本件調査は、原告が提出した確定申告書の収入金額欄及び必要経費欄の記載がなかったこと、確定申告書に添付すべき収支内訳書の添付がなかったこと、原告は事務用品類の納品業を開業して以来本件調査に至るまでに永年にわたって一度も税務調査を受けたことがなかった
ことから、原告の申告内容の正確性を調査する必要があるとの判断の下に行われたものであるから、本件調査に合理的必要性があったことは明らかである。本件調査はその必要性を欠き、違法であるとの原告の主張は、採用できない。(二) 本件調査の態様について
事前通知については、前記認定のとおり、Aは税務調査に先立ち事前に原告に通知をしなかったが、これは、Aが過去に原告が会長の地位にある八女民商と同じ民主商工会の会員に対して税務調査をした際、多人数の会員が税務調査に押し掛けて第三者の立会いや調査理由の開示を求めたりして税務調査が円滑に行かなかった経験から、事前通知をしない方がよいと判断したものであり、現に原告の本件調査においても八女民商の会員二〇数名が立ち会って調査が実施できなかったものである。しかも、本件調査において、原告から仕事の都合などで調査に応じられないと言われた場合には、Aは、調査を実施することなく、原告と調査日程の調整を行っているのである。また、本件調査の理由についても、前記認定のとおり、Aは、原告に対し、確定申告が適正になされているか確認する必要があることや原告について長年調査をしていないことを告げているのである。また、反面調査については、反面調査の対象者が直接に納税義務を負う者ではないこと、また、申告者の取引上の信用に関わる面も否定できないことから、実施の必要性及び方法等についての右利益衡量の上でいわゆる臨宅調査に比してより慎重な配慮を要するものというべく、反面調査が社会的相当性の限度内として許容される範囲についても右臨宅調査の場合と若干の相違があるといわざるを得ない。しかし、前記認定のとおり、Aは再三にわたって原告に対して本件調査への協力を求めたのに対し、原告は終始本件調査について非協力的な態度をとり、第三者の立会いを認めない限りは調査に応じないという姿勢であったことは明らかである。したがって、Aは、原告の申告内容の正確性を調査するために、やむを得ず原告と取引がある金融機関及び仕入先を調査したものというべきであるから、Aの右判断に合理性を、ひいては、右反面調査が社会的相当性の限度内として許容される範囲内にあることを認めるのが相当である。
そうすると、Aが本件調査において事前通知をしなかったことや開示した調査理由の内容、反面調査を実施したことは、いずれも原告の私的利益
を考慮しても未だAの税務職員としての合理的な裁量に基づくものであったというべきである。これらがいずれも違法であるとの原告の主張は、採用できない。3 税務調査における第三者の立会いについて
(一) 納税者の権利としての第三者の立会請求について
前説示のとおり、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられているのであるから、税務調査において第三者の立会いを認めるか否かについても、右税務職員の合理的裁量に委ねられているというべきである。したがって、原告が主張するように、納税者に税務調査における第三者の立会いを求める権利があると解することは到底できない。
(二) 第三者の立会いと税務職員の守秘義務違反について
法六九条は、税務調査を行う税務職員に対し、一般の国家公務員に課される守秘義務(国家公務員法一〇〇条一項、一〇九条)を加重している。これは、税務職員には広範な質問検査権が認められており、税務調査の過程で納税者自身や納税者の取引先等の秘密に属する事項を知ることが多いから、右秘密の保持を厳格にするということはもちろんのこと、そうした秘密を保護することにより、納税者が税務当局に対して事業内容や収支の状況を自主的に開示、申告しても、また、税務調査等に納税者や取引先等が協力しても、税務職員によってこれが公開されないことを保障して、税務調査等の税務事務への信頼や協力を確保するとともに、納税者や取引先等の真実の開示を担保して、申告納税制度の下での税務行政の適正な執行を確保することを目的とするものである。この守秘義務の趣旨に鑑みれば、税務調査を行う税務職員は、税務調査の結果知り得た納税者や取引先等の秘密に属する事項を漏らしてはならないことはもちろんのこと、税務調査の過程においても、納税者や取
引先等の秘密が税務調査に関係のない第三者に洩れるようなことがあってはならないというべきである。
これに対し、原告は、納税者の秘密については、納税者自身が第三者の立会いを望んで秘密の開示を容認しているのであり、守秘義務は問題にならない、また、納税者の取引先の秘密については、税務調査に税務職員と納税者だけが立ち会った場合でも、納税者には守秘義務はないのであるから、税務調査の過程で納税者に明らかになった取引先の秘密は第三者に漏れるおそれが
あり、税務調査に第三者が立ち会うことによって初めて生じる問題とは考えられないし、仮に第三者の立会いによって税務職員の守秘義務との関係で問題が生じうるとしても、正当な職務行為に基づくものであるから、違法性が阻却されると主張する。しかし、納税者自身の秘密については、確かに納税者自身が第三者の立会いを望んで秘密の開示を容認しているのであるから、守秘義務は問題にならないと解する余地もないではないが、取引先の秘密については、納税者が取引先の秘密を第三者に漏らすことが民事上の不法行為に当たりうるものであることはいうまでもないし、まして、税務調査の過程で取引先の秘密が税務調査に関係のない第三者に漏れることになれば、税務職員の守秘義務に抵触しうることは明らかである。また、税務職員が税務調査において無制限に第三者の立会いを認めるようなことがあれば、かえって守秘義務の観点から税務調査における合理的裁量を逸脱すると評価されることもあり得るのであって、そのような税務調査が正当な職務行為に基づくものということはできないことも明らかである。したがって、右原告の主張は採用できない。
(三) 本件調査における第三者の立会いについて
前記認定のとおり、Aは、本件調査においてCその他の第三者が立ち会っていたことから、守秘義務の関係で税務調査はできないと判断していずれも調査を実施しなかったものであるから、右Aの措置は税務職員としての合理的裁量の範囲内にあったものというべきである。
これに対し、まず、原告は、仮にCの立会いによってAの守秘義務が問題になりうるとしても、調査の過程で守秘義務の観点からCが立会いをしていては問題であると判断した時点でCの退席を求めれば足りたはずであり、調査を開始する前から一律にCの退席を求めたAの行為は合理的裁量を逸脱するものである旨主張する。しかし、税務調査においては、納税者による自主的な陳述、税務職員による質問及び納税者が作成した帳簿等の開示要請、それらの事項に関する納税者の陳述等が交錯し、反復していくものであるところ、そのような調査の過程では、取引先等の秘密に関する事項とそうでない事項が混在することは必至である。このような税務調査の実態に鑑みれば、Cの立会いの可否を調査事項の都度判断していたのでは税務調査が円滑に行えないことは明らかである。したがって、本件調査を開始する前から一律にCの退席を求めたAの措置は、合理的裁量の範囲内であったものというべきであり、原告の右主張は採用できない。次に、原告は、被告らが過去に税務調査において第三者の立会いを認めた例を挙げて、税務調査において第三者の立会いを認めるか否かの被告らの判断は恣意的になされているから、Aの判断も恣意的になされた旨主張する。しかし、税務職員の判断は、その都度の裁量によってなされるものであって、過去に税務調査において第三者の立会いを認めた事例が存在することやその内容をもって、直ちにAの右判断が合理的裁量を逸脱するものといえないことは明らかであり、右原告の主張も採用できない。さらに、原告は、Cがいわゆる記帳補助者であるから立ち会わせるべきである旨主張するが、いわゆる記帳補助者だからといってこれを税務調査に立ち会わせなければならないものではなく、立ち会わせる必要があるか否かの判断も当然税務職員の合理的裁量によって行われるものである。しかも、証拠(甲八、証人C)によれば、原告は八女民商の勉強会で税務の講師を務めており、税務に関する一定の知識を有していたこと、他方、Cは日商簿記二級の資格は有するものの税理士の資格はないことが認められ、また、前記認定のとおりCは両年課税期間の原告の帳簿等の記帳に関与したことはなく、ただ、原告が作成した集計表に記載してある売上と申告書の各合計が合っているかをチェックしただけであったというのであるから、Cを本件調査に立ち会わせる必要性は何ら認められないことになる。したがって、Aがその立会いを認めなかったこともその合理的裁量の範囲内であったものというべきである。
4 総括
以上のとおり、本件調査はその必要性が認められ、また、その過程においてAが採った措置はいずれも合理的裁量の範囲内であったものというべきであるから、本
件調査について違法と評価されるべき事実は何ら認められない。したがって、本件調査が違法であるとの原告の主張は、理由がない。
三 争点2(本件各処分における違法性の有無)について
1 法三〇条七項にいう帳簿等を保存の意義について
(一) 仕入れ税額控除の意義について
法三〇条一項が規定する仕入れ税額控除は、法六〇条により非課税とされるものを除き、国内において事業者が行った資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。法
二条一項八号)に対して広く消費税を課税する(法四条一項)結果、取引の各段階で課税されて課税が累積することを防止するため、公平の観点等に鑑み、前段階の取引に係る消費税額を控除することとしたものである。したがって、仕入れ税額控除は、このように課税の累積排除という法の本質に基づくものであるから、被告らが比較の対象としている所得税の青色申告制度が、帳簿書類を基礎とした正確な申告を奨励する意味で、納税義務者に対し、帳簿書類の備付け、記帳及び保存が正しく行われていることを前提として、種々の税務上の特典を与える恩典的なものであることとは制度趣旨を異にするものというべきである。しかし、このように税負担の累積排除が消費税の本質的な要請であるとしても、法は、一定の中小企業者に対しては簡易課税制度を、また、それ以外の事業者についても帳簿等の保存という要件との関連において課税の累積排除を認めるという仕入れ税額控除の制度を採用し、その限度で、課税実務の効率化を課税の累積排除の要請に優先させているのであるから、課税の累積排除の要請が絶対のものでないことは、法自体が認めるところである。このように、課税実務の効率化を考慮して、法三〇条七項にいう帳簿等を保存という要件が要求されている以上、この要件の解釈も課税実務の効率化という観点を踏まえて行われるのが相当である。
(二) 税務調査と法三〇条七項にいう帳簿等を保存について
法は申告納税制度を採用しているが、一般に右申告納税制度の下では、適性かつ公平な徴税のため、納税者の申告内容の正確性を的確に把握する必要があることから、税務職員には質問検査権が認められており、これは消費税においても同様である(法六二条)。そして、この質問検査権の行使による税務調査の過程では、当然、仕入れ税額控除の内容たる事業者の仕入れに係る消費税額の正確性の調査も予定されているといわなければならない。特に、消費税の場合、消費税は一般消費者からの預り金的性質を有すること、また、法がインボイス方式ではなく帳簿方式を採用していることから、申告内容の正確性担保のため、税務調査の重要性は極めて高いものである。他方、法三〇条七項は、帳簿等を保存しない場合には、同条一項による仕入れ税額控除の規定を適用しないものとしているが、右申告納税制度の趣旨に鑑みれば、法三〇条七項は、主として課税仕入れ等
の税額の調査、確認を行うための資料として帳簿等の保存を義務づけ、その保存を欠く課税仕入れ等の税額については仕入れ税額控除をしないこととしたものと解される。また、令五〇条一項が、法三〇条七項に規定する帳簿等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準じるものの所在地に保存しなければならないと規定していることろ、右にいう七年間とは、課税庁が課税権限を行使しうる最長期間である七年間(国税通則法七〇条五項参照)とまさに合致するのであり、令五〇条一項は、帳簿等が税務調査の資料として利用されることを前提に、その保存期間を規定しているものと理解することができる。そうすると、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、原告が主張するように単に帳簿等を物理的に保存していることであると解することはできず、税務調査において税務職員に対して帳簿等を提示することも含めて解釈しなければならない。(三) まとめ
以上を総合すると、法三〇条七項にいう帳簿等を保存とは、帳簿等が単に物理的に存在しているということだけではなく、法及び令の規定する期間を通じて、定められた場所において、税務職員の質問検査権に基づく適法な調査によりその内容を確認することができる状態での物理的保存を継続していること、換言すれば、適法な調査に応じて課税仕入れの存否及び課税仕入れ等の税額を確認できるように提示しうる状態、態様での保存を意味すると解するのが相当である。 これに対し、原告は、租税法律主義の下では租税法規の解釈は文理解釈によるべきところ、法三〇条七項にいう保存に提示も含めて解釈することは文理解
釈に反する拡張解釈であって、租税法律主義に違反する旨主張する。しかし、確かに租税法律主義の下では租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであって、みだりに拡張解釈をすべきではないが、規定の趣旨目的に照らして租税法規を解釈することも当然に許されるものである。そうすると、右法三〇条七項にいう帳簿等を保存の解釈も、右に述べたとおりその立法趣旨等に照らして導かれるものであり、しかも保存という文理にも反するものではないから、原告の右主張は採用で
きない。また、原告は、租税法律主義の下では課税要件は明確でなければならないところ、保存に提示も含めて解釈すると、この帳簿等を保存の有無、すなわち、税務調査等のために税務職員等により適法な提示要求がされたときにこれに直ちに応じたか否かの判断を税務職員等に委ねることになるが、それでは課税要件の要件事実として極めて明確性を欠くことになって不当である旨主張する。しかし、後記のように、この帳簿等を保存の有無は、課税処分の段階に限らず、不服審査又は訴訟においても主張、立証することが許されるものである。また、適法な提示要請があれば直ちにこれを提示できる状態での保存の有無は、確かに帳簿等の物理的保存の有無に比べれば評価的要素を含む概念ではあるが、租税法規の法律解釈においてもこのような評価的概念を用いることは不可避的に生じうるのであり、不服審査又は訴訟においても通常認定し得るような要件であるから、課税要件の明確性に反するということはできない。したがって、原告の右主張も採用できない。
2 仕入れ税額控除及びその否認の主張、立証責任の分配等について 法三〇条七項の文理に従えば、帳簿等を保存しない場合が同条一項に規定する仕入れ税額控除の消極要件とされているので、この帳簿等を保存しない事実は、課税処分の段階に限られず、不服審査又は訴訟においても、主張、立証することが許されるものと解される。そして、税務署長による消費税に係る更正等の取消訴訟における法三〇条一項及び七項の仕入れ税額控除とその否認の主張、立証責任の分配については、次のとおり考えるのが相当である。すなわち、まず、被告である税務署長は、当該処分の適法性を基礎づける消費税の発生根拠事実として、原告である事業者が当該課税期間において国内において行った課税資産の譲渡等により対価を得た事実を主張、立証すべきである(法四条、五条、二八条)。次に、仕入れ税額控除を主張する原告は、仕入れ税額控除の要件として、当該課税期間中に国内で行った課税仕入れの存在及びこれに対する消費税の発生の各事実を主張、立証すべきことになる(法三〇条一項)。そして、これに対して仕入れ税額控除の否認を主張する被告である税務署長は、その要件である帳簿等を保存しない場合に該当する事実を主張、立証すべきことになる。このような主張、立証責任の分配を前提に、消費税
に係る更正等の取消訴訟において原告である事業者がこの帳簿等を提出する場合には、これは、自己が主張、立証責任を負っている右仕入れ税額控除の要件の本証であるばかりでなく、被告である税務署長が主張、立証責任を負っている右帳簿等を保存しない場合の反証としての意味を有することになろう。しかし、その場合であっても、帳簿等の保存期間における税務職員の質問検査権に基づく適法な帳簿等の提示要請に対し、納税者が正当な理由なくその提示を拒否し、そのため税務職員がその内容を確認することができなかったという事実が認められるときは、逆に、その当時において右の意味における帳簿等を保存しなかったことを強く推認できるので、法三〇条七項に規定する帳簿等を保存しない場合に該当するものとして仕入れ税額控除は認められないことになる。もっとも、提示の拒否があったと認められるか否かは、税務当局が行う調査の過程を通じて社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったか否か、納税者の言動等の事情を総合考慮して判断されるべきものであることはいうまでもない。
3 本件における法三〇条七項の適用について
仕入れ税額控除及びその否認の主張、立証責任等についての右説示に従えば、まず、積極要件としての課税仕入れの存在及びこれに対する消費税の発生の各事実の有無を検討することになり、本件においても、原告は、右各事実を立証するものとして、各枝番号を含む甲一八ないし一三三号証を提出しているものと解される。しかし、本件の実質的争点は、仕入れ税額控除の否認の要件である帳簿等を保存しない場合に該当するか否かであるから、この点を先に判断する。そうすると、前記二で説示したとおり、まず、本件調査はいずれも適法なものであると評価することができるものである。それにもかかわらず、前記認定の、第三者の立会いがあっ
ては調査ができないとして第三者の立会いがない状態での調査を再三にわたって要請したAに対し、原告がCその他の第三者が立会った調査に固執したことなどの本件調査の経緯からすると、帳簿等の保存期間における税務職員であるAの質問検査権に基づく適法な帳簿等の提示要請に対し、原告が正当な理由なくその提示を拒否し、そのためAがその内容を確認することができなかったものと認めざるを得ないことになる。したがって、本件訴訟において原告が法三〇条七項に規定する帳簿等を保存しない場合に該当しない事実を基礎づける証拠として右各書証を提出しても、本件は、原告において、帳簿等の保存期間における適法な調査に応じて、その内容を確認しうるように提示できる状態、態様で帳簿等を保存していない場合に該当するものと認めるのが相当といわなければならない。なお、原告は、平成七年一月一一日の調査において帳簿等を提示した旨主張するが、前記認定の本件調査の経緯における同日の状況からすると、到底原告が帳簿等を提示したとは言い難く、また、仮に原告の本件倉庫内の段ボール箱の中に帳簿等が存在したとしても、Cが立ち会っていたためにAはその内容を確認することができなかったのであるから、原告が適法な調査に応じて、その内容を確認しうるように提示できる状態、態様で帳簿等を保存していたと言い難いことには変わりがないといわざるを得ない。 以上のとおり、両年課税期間の消費税につき、原告の課税仕入れの存在及びこれに対する消費税の発生の各事実の有無について判断するまでもなく、本件は、法三〇条七項に規定する帳簿等を保存しない場合に該当するので、仕入れ税額控除を否認した被告八女税務署長の措置に違法はないことになる。そうすると、これを前提とした両年各処分は、適法といわなければならない。
4 平成三年課税期間の簡易課税について
前記争いのない事実のとおり、被告八女税務署長は、本件各処分のうち、平成三年課税期間の簡易課税の計算において適用する割合については、課税標準額に対する税額に卸売業者に対して適用する割合である一〇〇分の九〇を乗じたものである。これに対し、被告らは、本件訴訟において、原告が平成三年課税期間の帳簿等を提出していないので、原告を卸売業者と確認することができない結果、課税標準額に対する税額に卸売業者以外の事業者に対して適用する割合である一〇〇分の八〇を乗じるべきであると主張する。しかしながら、前記認定の本件調査の経緯からは、被告八女税務署長は、本件調査に基づき平成三年課税期間の簡易課税の計算において原告が卸売業者と確認して卸売業者に適用する割合を乗じたものと推認できるので、本件訴訟においてこれと異なって原告が卸売業者以外の事業者であるとの主張をするには、これを認めるに足りる証拠を提出しなければならないというべきである。しかるに、本件全証拠中には右事実を認めるに足りる証拠ない。したがって、本件訴訟における被告らの右主張は採用できないので、結果、本件各処分におけると同様に平成三年課税期間の簡易課税の計算において適用する割合は卸売業者に対して適用すべき割合である一〇〇分の九〇を乗じるのが相当となる。そうすると、前記争いのない事実及び証拠(甲三)によれば、本件調査における仕入れ先の調査等に基づいて把握した原告の平成三年分の仕入れ金額八三六五万六九九九円を基に、原告と事業規模、形態の類似した同業者の平均仕入れ原価率八一・四八パーセントで割り戻して推計した平成三年分の総収入金額一億〇二六七万一八二〇円に一〇三分の一〇〇を乗じた額九九六八万一〇〇〇円が平成三年課税期間の課税標準額であり、右課税標準額に対する消費税額が二九九万〇四三〇円になることが認められ、これに右一〇〇分の九〇を乗じると、計算上、控訴する仕入れ税額は二六九万一三八七円となり、ひいては納付すべき税額は二九万九〇〇〇円となる。その結果、平成三年課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額二九万九〇〇〇円を超える部分は違法として取り消さなければならないことになる。
三 争点3(慰謝料請求)について
前説示のとおり、本件各処分中平成三年課税期間に係る消費税についての更正に一部違法が認められるが、その余の本件各処分及び本件調査には何ら原告主張の違法性は認められず、また、右違法事由についてもその内容からして何ら国家賠償法上の損害賠償請求を基礎づける違法と評価できるものではないことは明らかである。したがって、原告の被告国に対する慰謝料請求は理由がない。四 結論
以上のとおり、原告の本訴請求のうち、被告八女税務署長に対する平成三年課税期間に係る消費税についての更正のうち納付すべき税額二九万九〇〇〇円を超える部分についての取消請求は理由があるのでこれを認容するが、被告八女税務署長に
対するその余の請求及び被告国に対する請求はいずれも理由がないので、これを棄却する。
よって、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 中山弘幸
裁判官 野島秀夫
裁判官 佃浩介

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