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相続税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成9年(行ウ)第125号)
事件番号平成14(行コ)210
事件名相続税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成9年(行ウ)第125号)
裁判年月日平成15年3月25日
法廷名東京高等裁判所
判示事項税務署長がした相続税の更正処分に対し,租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前)69条の3の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しなかったことが違法であるなどとしてされた取消請求が,棄却された事例
裁判要旨税務署長がした相続税の更正処分に対し,租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前)69条の3の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しなかったことが違法であるなどとしてされた取消請求につき,同条3項は,相続税の申告時に,申告書に前記特例の適用を受けようとする旨を記載し,計算に関する明細書等を添付して申し出ることを要件としているから,申告書に前記特例の適用を受ける旨を記載せず,前記明細書等を添付しないでした申告に対する更正処分の取消訴訟で前記特例が適用されるべき旨を主張することは許されず,また,同条4項は,前記特例の記載等がない相続税の申告書が提出された場合であっても,やむを得ない事情がある場合には,前記特例が適用される場合がある旨を定めているが,前記特例は対象となる宅地のうち200平方メートルまでの部分について特例を認めるものであるところ,前記申告の際に別の土地を前記特例を適用する宅地として選択し,うち200平方メートル部分について前記特例を適用して相続税の申告をしている場合には,相続税債務は既に確定しており,同項を適用すべき前提を欠いているから,前記特例は適用されないなどとして,前記請求を棄却した事例
裁判日:西暦2003-03-25
情報公開日2017-10-19 21:18:40
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主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨の判決を求める。
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決を求める。
第二 当事者の主張
一 被控訴人らの請求の原因
1 更正処分等の経緯
(一) P1は、平成5年9月24日に死亡したP2の長男であり、他の相続人5名(P1と他の相続人5名を併せて、以下本件相続人らという。)とともに、P2の遺産を相続した(この相続を以下本件相続という。)。
(二) P1は、平成6年4月25日、本件相続について、課税価格を12億8529万8000円、納付すべき税額を6億3984万3900円とする相続税の申告をし、さらに、平成7年3月10日、課税価格を13億2715万7000円、納付すべき税額を6億6442万1300円とする修正申告(以下本件修正申告という。)を行ったところ、控訴人は、同年5月12日、P1に対し、過少申告加算税を245万7000円とする過少申告加算税賦課決定処分を行った上、さらに、同年6月5日、課税価格を15億7574万9000円、納付すべき税額を8億0258万9900円とする更正処分(以下本件更正処分という。)及びこれに係る過少申告加算税を1381万6000円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下本件賦課決定処分という。)を行い、その旨をP1に通知した。(三) P1は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成7年7月28日、異議申立てをしたところ、控訴人は、同年10月23日付けでこれを棄却する旨の異議決定をし、同決定書謄本は同月25日にP1宛送達された。P1は、これを不服として、同年11月15日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は平成9年2月7日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、裁決書謄本は、同月8日、P1に送達されたため、P1は、同年5月6日、本件更正処分及び本件賦課決定処分の各取消しを求める本件訴えを提起した。
(四) P1は、平成11年7月17日に死亡し、妻であるP3、母であるP4が相続した。
2 本件更正処分等の違法性
(一) 有限会社高芳管財に対する出資持分の評価に係る違法性
(1) P1は、P2が所有していた有限会社高芳管財(以下高芳管財という。)に対する出資持分(以下本件出資という。)を相続したところ、国税庁長官通達である財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56・直審(資)17による国税庁長官通達、平成6年6月27日付け課評2-8・課資2-113による改正前のもの。以下評価基本通達という。)によれば、取引相場のない小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価するとされ(179(3))、1株当たりの純資産価額は、課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び後記の評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下法人税額等相当額という。)を控除した金額(課税時期における相続税評価額による純資産価額)を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額(185)、評価差額に対する法人税額等相当額は、(1)課税時期における相続税評価額による総資産価額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額から、(2)課税時期における各資産の帳簿価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額を差し引いて残額がある場合における、その残額に51パーセント(清算所得に対する法人税、事業税、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する金額)を乗じて計算した金額とされ(186-2)、さらに、有限会社に対する出資の価額は、取引相場のない株式に関する定めに準じて計算した価額によって評価するとされている(194)。
(2) そこで、P1は、本件修正申告に際し、上記評価基本通達の定めに従って、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行った上、1口当たりの本件出資の純資産価額を4万3526円と評価したが、控訴人は、本件更正処分に当たり、評価差額に対する法人税額等相当額を控除せず、1口当たり9万3444円と評価した。
(3) 評価基本通達は、行政先例法又は行政慣習法と位置付けられるものであり、そうでないとしても課税当局が納税者に対して公表していることに鑑みれば、評価基本通達の定めに従って評価を行い、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行うべきであり、それを行わなかった本件の評価は違法といわざるを得ない。 実質的にみても、課税時期において会社の資産が出資者に帰属した場合の価値を評価するに当たっては、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行うのが合理的であり、同控除は、純資産価額方式による評価の本質というべきものであり、それを行わないことは許されない。
そうすると、P1が行った本件修正申告の内容には誤りはなく、本件更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分は取り消されるべきである。(二) αの敷地持分等の評価に係る違法性
(1) P2がαの敷地持分等を取得した経緯
P2は、従前、東京都新宿区β30番1、31番、32番1の各宅地(1595.97平方メートル、以下本件従前地という。)を所有し、その貸付けを行っていたものであるが、昭和61年4月24日、本件従前地を含む約3.1ヘクタールを施行地区としたβ東地区第一種市街地再開発事業(以下本件事業という。)の基本計画が権利者に提示され、平成元年11月24日に建設大臣が同事業の施行規程及び事業計画を認可し、平成2年9月25日に権利変換計画を認可して同年10月11日に権利の変換が行われ(以下本件権利変換という。)、さらに、平成5年4月7日の権利変換計画の変更を経て、P2は、本件事業によって建築されるα(以下本件施設建築物という。)のうち本館地上5階の住宅部分にある居宅(1-1街区A棟501、以下A棟501という。)の給付を受ける権利及びその敷地持分並びに本館地上8階から12階までの事務所部分全体(1-1街区A棟801、以下A棟801という。)の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分(以下、A棟801とその敷地部分を合わせて801共有床ともいう。)を取得した。 本件施設建築物は、平成4年11月19日にその建築工事が起工され、平成7年1月31日までに建設工事が完了して、同年2月1日から使用が開始された。(2) 小規模宅地の負担軽減措置の適用
ア 租税特別措置法(平成6年法律22号による改正前のもの、以下措置法という。)69条の3第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人若しくは当該相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地上に存する権利)で大蔵省令で定める建物若しくは構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得したものに係る全てのこれらの宅地等の200平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得した宅地等で政令で定めるものについては、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に同項各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とすると定め、同項1号は、当該小規模宅地等に係る当該200平方メートルまでの部分の全部が当該被相続人等の事業の用に供されていた宅地等である場合には、その割合を100分の30としている(以下本件特例という。)。そして、同条3項は、本件特例は、その適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法27条又は29条の規定による申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載し、本件特例による計算に関する明細書その他の大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り適用するとしているが、同条4項は、税務署長は、相続税の申告書の提出がなかった場合又は前項の記載若しくは添付がない相続税の申告書の提出があった場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細書及び大蔵省令で定める書類の提出があった場合に限り、本件特例を適用することができるとしている。イ P2が死亡した当時、本件施設建築物は建築の途上にあり、P1は、P2が権利の変換によって取得した801共有床の敷地部分の共有持分を相続したが、相続税の申告書の提出期限までに相続人らが現実に事業の用に供していなければ、本件
特例の適用を認めないというのが当時の課税庁の運用であったため、P1は、801共有床の敷地持分に本件特例の適用を求めることはせず、やむなく控訴人P4が相続した別の土地を本件特例の対象地に選別して本件修正申告を行った。 しかしながら、P2は、本件事業の施行者である住宅都市整備公団の事業計画に賛同して権利変換後共有床の共有者となることに同意しており、事業を継続させる意思は明白であったから、相続開始時に本件施設建築物が完成せず、現実に事業の用に供していなかったとしても、本件特例の適用が認められるべきであり、P1が本件修正申告をした際、801共有床の敷地持分に本件特例の適用を求めなかったことには、措置法69条の3第4項所定のやむを得ない事情が認められる。ウ 801共有床の敷地持分に本件特例の適用が認められるとすると、仮に、本件出資の評価に際して評価差額に対する法人税額等相当額の控除が認められなかったとしても、P1の課税価格及び納付すべき税額は、本件修正申告に係るものを下回ることが明らかであるから、本件更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分は取り消されるべきである。
(3) 貸家建付地及び貸家としての評価
ア 評価基本通達26、93及び94は、貸家建付地及び貸家の価額について、貸家の目的に供されている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その自用地としての価額にその宅地に係る借地権割合と貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額により評価し、借家権の目的となっている家屋については、その家屋の価額からその家屋に係る借家権の価額を控除した金額により評価し、借家権価額は、その借家権の目的となっている家屋の借家権が設定されていないものとした場合における価額に、借家権割合を乗じて計算した金額によって評価する旨を定めている。
イ 801共有床は、本件事業に係る事業計画によって当初から貸付けの用に供することが確定しており、P2が貸付用以外の用途に供する土地として、これを自ら利用し又は処分することは不可能であったから、本件相続開始時に実際に賃貸借が行われていなかったとしても、A棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を評価するに当たっては、評価基本通達26及び93を適用して、貸家建付地及び貸家としての評価減をすべきであったところ、本件更正処分は、同減額措置を講じないで本件敷地持分及び本件施設建築物持分を評価した。ウ 控訴人は、本件更正処分において、本件施設建築物の敷地(1万9511.37平方メートル)を、別紙3のとおり、路線価に基づいて1平方メートル当たり1086万3480円と評価したが、基準となる正面路線の位置を誤り、また、同敷地には複数の路線価が付されているにもかかわらず、加算額の調整が不適正であったほか、同敷地は、七角地の不整形地であるにもかかわらず、その補正もされていなかったもので、適正な評価がされていなかったところ、これらを考慮すると、同敷地は1平方メートル当たり974万4055円と評価されるべきである。エ 以上のとおり、本件施設建築物の敷地の価額を1平方メートル当たり974万4055円と評価した上、A棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を評価する際に貸家建付地及び貸家としての評価減を行えば、仮に、本件出資の評価に際して評価差額に対する法人税額等相当額の控除が認められず、801共有床の敷地持分に本件特例の適用が認められなかったとしても、P1の納付すべき税額は、本件修正申告に係るものを下回ることが明らかであるから、本件更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分は取り消されるべきである。(三) 本件更正処分に更正の理由が付記されていなかった違法性 本件更正処分に係る通知書には、更正処分を行う理由が十分に付記されておらず、本件更正処分には手続上の瑕疵があり、違法である。
3 したがって、本件更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分は、いずれにしても違法であるから、本件更正処分のうち課税価格13億2715万7000円、納付すべき税額6億6442万1300円を超える部分及び本件賦課決定処分の各取消しを求める。
二 請求原因に対する控訴人の認否
1 請求原因1の各事実は認める。
2 同2について
(一) 同(一)について
(1) 同(1)及び(2)の事実は認める。
(2) 同(3)の主張は争う。
本件出資の評価に当たっては、評価基本通達に定める評価方法を形式的に適用す
ることなく、純資産価額方式を基本としつつ、法人税額等相当額を控除しないで評価されるべきである。
(二) 同(二)について
(1) (1)の事実は認める。
(2) (2)のうちイ及びウの主張は争う。
本件施設建築物は、本件相続開始当時には未だ完成されておらず、被相続人等の事業の用に供されていた建物が存在しなかったのであるから、本件特例の適用はなく、また、本件相続人らは、被控訴人P4が相続により取得した土地の一部について、本件特例の適用を適法に受けているのであって、本訴においてその差し替えを認めることは許されない。
(3) (3)のうちイないしエの主張は争う。
801共有床は、単に貸付用建物として利用されることが確実であったというものにすぎず、本件相続開始当時において、賃借人が存在したわけではないのであって、借家権を消滅させるための立退料を必要としたり、本件施設建築物持分及び本件敷地持分の利用について制約を受けることもなかったのであるから、交換価値が下落するような事情は全くなかった。したがって、A棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を貸家及び貸家建付地と同様に評価する余地はない。
(三) 同(三)について
同(三)の主張は争う。
三 抗弁
1 本件更正処分の根拠
P2の相続に係るP1の相続税の課税価格及び納付すべき相続税額の算出根拠は、別紙1の課税価格等の計算明細表及び別紙2の税額算出表に記載のとおりであり、課税価格は15億7574万9000円、納付すべき税額は8億0258万9900円となるところ、これは、本件更正処分の内容と一致するから、本件更正処分は適法である。
2 本件賦課決定処分の根拠
P1は、P2に係る相続税の課税価格及び納付すべき相続税額を過少に申告していたというべきであり、これについて国税通則法65条4項にいう正当な理由も存しないから、同条1項により、本件更正処分によってP1が新たに納付すべきこととなった相続税額1億3816万円に100分の10を乗じて算出した1381万6000円を過少申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。四 抗弁に対する認否
争う。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理 由
一 本件相続及び本件更正処分等に至った経緯
請求原因1、同2(一)(1)及び(2)、同(二)(1)の各事実は、当事者間に争いがなく、証拠(甲第1及び第4号証、第9ないし第11号証、第17、第18、第27及び第29号証、乙第2号証の1ないし4、第3号証の1、2、証人P5及び同P6の各証言)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
1 P2(明治33年7月22日生まれ)は、本件従前地(1595.97平方メートル)を所有し、同所に所有していた居宅に居住するとともに、建物所有を目的として他人に賃貸して地代を得てきたものであるが、昭和61年4月24日、都市再開発法に基づき、本件従前地を含む約3.1ヘクタールを施行地区として高層ビルを建築する本件事業の基本計画が権利者に提示され、平成2年10月11日に都市再開発法所定の本件権利変換が行われた。P2の所有する本件従前地は、本件権利変換の際、66億6387万4000円と評価され、P2は、そのうち34億1743万1000円を補償金として受領したほか、残額の32億4644万3000円を権利変換の対象とし、平成5年4月7日の権利変換計画の変更を経て、P2は、本件事業によって建築される本件施設建築物のうち、居宅であるA棟501(床面積128.71平方メートル)の給付を受ける権利及びその敷地持分(3億2529万6749分の15万4533、都市再開発法73条1項4号所定の価額の概算額は、A棟501の給付を受ける権利が1億4935万3000円、その敷
地部分が1億5453万3000円の合計3億0388万6000円とされた。)並びに801共有床であるA棟801(床面積1万2460.17平方メートル)の共有持分(124万6017分の8万0156)の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分(3億2529万6749分の213万4783、同概算額は、A棟801の共有持分の給付を受ける権利が8億0777万4000円、その敷地持分が21億3478万3000円の合計29億4255万7000円とされた。)を取得した。
2 P2は、本件権利変換がされた平成2年当時、既に90歳に達していたため、P2及びその親族は、近い将来、P2が死亡した際に課せられる相続税の負担を心配するようになっていたところ、日本事業承継コンサルタント協会の担当者から、相続税対策として同族会社を二社設立して相続税の課税対象額を減少させる概略次のような方策の紹介を受けた。
a 親が多額の資金を出資して第1法人(A社)を設立する。
b A社の株式(出資)を著しく低い価額で現物出資することにより第2法人(B社)を設立する。
c 親から子へB社の株式(出資)を相続税評価額で売却する。
d 上記売却後、B社がA社を帳簿価額で吸収合併する。
e 子はB社を減資して資本の払い戻しを受け、親が出資した資金を子が取得する。
P2は、相続税対策として上記方策を採用することを決断し、平成3年3月22日、資本金を500万円とする有限会社である高巳投資を設立し、同月25日、三井信託銀行(当時)から、返済期限を平成8年3月末日、利率を年7.5パーセントとして5億2000万円を借り受け、平成3年3月25日、5億1000万円を三井信託銀行γ支店の高巳投資名義の普通預金口座に入金し、高巳投資の出資持分5000口のうち4980口(残余の20口は、P1及び被控訴人P4が各10口ずつを取得した。)を取得し、高巳投資は、資本準備金に4億9500万円を計上した。
P2は、平成3年3月27日に、高巳投資の自己名義の出資口数4980口及び被控訴人P4名義の出資口数10口の合計4990口を現物出資することにより資本金499万円の有限会社である高芳管財を設立し、P2及び被控訴人P4は、高芳管財の出資持分4990口(P2が4980口、被控訴人P4が10口)を取得した。
3 一方、本件施設建築物は、平成3年2月15日にその建設工事の発注が行われ、平成4年11月までに施行区域にある建物の解体撤去作業が終了したため、同月19日に本件施設建築物の起工式が行われて建設工事が着工され、平成7年1月31日に完成したが、P2は、本件施設建築物の完成を見ることなく、平成5年9月24日に死亡した。
本件施設建築物の本館地上8階から12階までの801共有床は、平成2年6月14日に認可された権利変換計画においても、P2を含む80名がこれを共有し、賃貸用事務所床として運用することが予定されていたところ、上記共有者(その相続人を含む。)らは、平成6年11月、共有床の共有持分全部を出資し、共同の事業者の団体として新宿アイランド共有者組合を構成し、その管理のもとに共有床全体を他に賃貸することによって事業収益を上げ、これを各共同の事業者に出資比率に応じて分配すること、組合員は、組合の承認を得た上で共有持分を譲渡することができることなどを内容とする組合契約(新宿アイランド共有者組合契約)を取り交わし、本件施設建築物の完成後、実際に各テナントとの間において賃貸借契約が締結され、801共有床は賃貸に供された。
4 P2の長男であるP1は、P2の遺産のうち、高芳管財に対する出資持分4980口、有価証券、不動産を相続したほか、本件権利変換によってP2が取得したA棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を他の相続人らと相続したたため、P1は、他の本件相続人らと共に平成6年4月25日に相続税の申告を行い、その後、平成7年3月10日に本件修正申告を行った。5 P1らは、その際、別紙3のとおり、本件施設建築物の敷地を一区画とし、その価額を平成5年度の路線価に基づき評価基本通達の定めに従って1平方メートル当たり1086万3480円と評価した上、土地区画整理事業施行中の宅地の評価方法に準じて5パーセントを減じ、P2の各敷地持分に応じて、A棟501の敷地持分の価額を9556万6033円、A棟801の敷地持分の価額を13億2141万1980円(合計14億1697万8013円)と、また、別紙4のとおり、
本件権利変換において定められた都市再開発法73条1項4号所定の価額の概算額(A棟501の給付を受ける権利1億4935万3000円、A棟801の共有持分の給付を受ける権利8億0777万4000円)を基礎とし、建築中の家屋の評価方法に準じて30パーセントを、さらに、使用収益が停止されていることを考慮して5パーセントをそれぞれ減じてA棟501の給付を受ける権利を9931万9745円、A棟801の共有持分の給付を受ける権利を5億3716万9710円(合計6億3648万9455円)とそれぞれ評価した。
また、P1らは、控訴人P4が相続により取得した東京都中央区δ1801番1号に所在する貸家建付地(260.32平方メートル)を本件特例を適用する宅地として選択し、当該土地のうち200平方メートル部分について本件特例を適用して同土地を2億3797万3201円と評価した。
6 P1は、有価証券である本件出資4980口を評価する当たって評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行って、1口当たりの純資産価額を4万3526円とし、その総額を2億1675万9480円と評価して本件修正申告をしたが、本件相続によって取得したこれ以外の財産の価額及び債務等の額は、別紙1のP1欄記載と同額の内容で本件修正申告をした。
7 本件相続開始当時における高芳管財の資産の相続税評価額は合計6億7104万9000円、同資産の帳簿価額は1億9427万3000円、負債の相続税評価額及び帳簿価額はいずれも2億0476万1000円となり、高芳管財の純資産価額は4億6628万8000円となる。
二 本件出資の評価
本件相続開始時における高芳管財の資産の相続税評価額が6億7104万9000円、同資産の帳簿価額が1億9427万3000円、負債の相続税評価額及び帳簿価額がいずれも2億0476万1000円となり、高芳管財の純資産価額が4億6628万8000円となることは、前記認定のとおりであって、これによれば、相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産額の評価差額は4億7677万6000円となるところ、平成6年6月27日改正前の評価基本通達185及び186-2の定めによれば、本件出資の1口当たりの時価は、課税時期における各資産を評価基本通達に基づいて評価した価額の合計額(相続税評価額)から課税時期における各負債の合計額及び評価差額に対する法人税額等相当額(評価差額に51パーセントを乗じた額)を控除した金額を課税時期における出資口数で除して計算することになる。そこで、本件出資について、あくまで上記評価基本通達の定めを適用して、その時価の評価につき前記の法人税額等相当額を控除するべきか(被控訴人の主張)、それとも、上記評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情があるとして、評価基本通達6に基づき、法人税額等相当額を控除しないなど他の合理的な評価方式によるべきか(控訴人の主張)が、ここでの争点となる。
そもそも、相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべきものと定めるが、このような時価は、必ずしも一義的に確定することができるものではないため、国税庁長官の発出に係る評価基本通達において予め財産評価の一般的基準を定め、課税庁は、これに定められた画一的な評価方式によって財産の時価の評価をすべきものとされているところである。これは、財産の時価を個別に評価する方法によるものとしたときには、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、納税者の法的安定性及び予見可能性を損ね、納税者間の公平を害する可能性があり、また、課税庁にとっても、事務の負担が大きく、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどに基づくものである。評価基本通達がこのようなものである以上、それはすべての納税者に等しく適用されるべきものであって、特定の納税者又は財産についてのみ評価基本通達に定める方式以外の方法によって評価することは、たとえそれが相続税法22条の定める時価としての評価に適合するものであったとしても許されないものというべきである。しかしながら、一方で、評価基本通達6は、

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

旨を定めているところ、これは、評価基本通達に定める個別の評価方式をすべて財産について画一的に適用するという形式的な平等を貫いた場合にはかえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどの特別の事情がある場合においては、評価基本通達に定める評価方式以外の他の合理的な評価方式によることが許されるとしているものと解するのが相当であるか
ら、評価基本通達の個別の定めが上記のとおりすべての納税者に等しく適用されるべきものであるとはいっても、このことと、評価基本通達6の定める要件がある場合において、評価基本通達の定める方式以外の方法によって評価することが許されることとは、自ずから別問題であるというべきである。
そこで、取引相場のない株式や有限会社に対する出資の評価に関する評価基本通達が定められた経緯についてみると、証拠(乙第11号証及び第20号証)及び弁論の全趣旨によれば、もともと昭和47年6月20日の改正前の評価基本通達においては、純資産価額方式による取引相場のない株式等(有限会社に対する出資も、これに準じる。)の評価は、課税時期における各資産を評価基本通達により評価した価額(相続税評価額)の合計額から課税時期における債務の金額を控除した額によるとされていたにとどまっていたこと、ところが、評価理論上、個人が株式等を通じて会社の資産を間接的に所有するときは、個人事業主が直接に事業用資産を所有する場合と比較して、個人が自己のために会社の資産を処分するためには、会社を解散し清算して株式数等に見合う財産を手にするほかないという点で、その処分性等に難易差があると考えられ、両者の評価上の均衡を図る必要上、昭和47年6月20日改正評価基本通達においては、課税時期における各資産を相続税評価額により評価した価額の合計額から課税時期における債務の金額及び相続税評価額への評価替に伴って生じる評価益を法人税法における清算所得とみなして計算した法人税等の税額に相当する金額を控除した額によるものとすることに改められたこと、しかしながら、上記の評価基本通達の定める法人税額等相当額控除の取扱いを利用して、借入金等で会社を設立し、その会社の株式等を著しく低い価額で現物出資して別会社を設立して、評価差額をいわば人工的に創出し、別会社の株式について、法人税額等相当額の控除をし、あるいは、同族会社を設立して手持ちの上場株式を現物出資し、取引相場のない株式に振り替えて、法人税額等相当額の控除をするなどして、相続税評価額を圧縮するなどの事例がみられため、平成6年6月27日改正評価基本通達においては、取引相場のない株式等を純資産価額方式で評価する場合において、その資産の中に、現物出資により著しく低い価額で受け入れた株式等があるときは、原則として、法人税額等相当額は、純資産価額の計算上これを控除しない旨が定められたことの各事実を認めることができる。
このように、取引相場のない株式等の評価に当たり法人税額等相当額を控除すべきものとされた趣旨は、株式等の所有を通じて間接的に資産を所有している場合と個人事業主が個々の事業用資産を直接所有している場合との評価上の均衡を図ることにあったのであるから、評価基本通達のこの規定を利用して法人税額等相当額の控除を受けて専ら相続税、贈与税等の租税回避を目的として、現物出資による会社を設立し、個人の財産を一時的に間接的な所有形態に変更することにより、殊更に評価差額を創出して贈与財産ないし相続財産の圧縮を図り、課税時期を経過するや、減資を行うなどして再び直接的な所有形態に戻して従前と同様の財産価値を回復させ、かつ、会社を解散した場合の清算所得に対する課税も行われないことを計画するような場合において、評価基本通達をそのまま形式的、画一的に適用して、取引相場のない株式等の評価に当たり法人税額等相当額を控除して課税標準を算出することは、およそ法人税額等相当額を控除すべきものとされた趣旨に反するばかりか、他の納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである。したがって、このような場合における当該株式等の評価については、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情がある(評価基本通達6)ものとして、他の合理的な評価方式によって評価すべきこととするのが相当である。
これを本件についてみると、先に認定したとおり、新宿区内の一等地に広大な土地を所有し、本件事業によって、多額の補償金と併せて本件施設建築物の持分を取得することになり、相続が発生すれば多額の相続税の負担を余儀なくされることを危惧したP2は、相続税対策として同族会社を二社設立して相続税の課税対象額を減少させる方策の紹介を受け、借り入れた5億1000万円を拠出して高巳投資を設立するとともに、取得した高巳投資の出資持分全部を現物出資して資本金499万円の高芳管財を設立し、高芳管財に対する出資持分4980口を取得したものであり、高巳投資に対する出資持分を著しく低い価額で現物出資した結果、高芳管財の相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産額との間に、意図的に4億7677万6000円もの高額の評価差額を生じさせたもので、その目的に鑑みれば、相続が発生した後に高巳投資を吸収合併した高芳管財の減資が予定され、高芳管財が解散した場合に清算所得が生じることはおよそ想定されていなかったもの
ということができ、現時点においては、高芳管財が高巳投資を吸収合併していないからといって、それだけではこのことを左右するものではない。
以上のような事情に照らすと、P1が相続した本件出資の時価の評価につき、評価基本通達をそのまま適用して法人税額等相当額を控除することとすると、前記のような一連の行為の前後においてP2が直接又は間接に所有する財産の価値にはほとんど変動がなく、かつ、吸収合併後に存続する高芳管財が解散した場合に清算所得が生じることは想定されていないにもかかわらず、本件相続において生じた財貨の移転が著しく過少に評価されることになり、取引相場のない株式等の評価につき法人税額等相当額を控除して課税標準を算出することとされた趣旨に反し、他の納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるから、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情があるものというべきであり、したがって、評価基本通達を形式的、画一的に適用することなく、他の合理的な評価方式によって評価すべきこととするのが相当である。そして、本件出資の時価の評価については、評価基本通達185の趣旨に鑑みて、結局、純資産価額方式に従って、本件譲受け当時における高芳管財の各資産を評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除して算定することとするのが相当であり、これによれば、高芳管財に対する出資1口当たりの時価は、高芳管財の本件相続当時における相続税評価額による純資産価額4億6628万8000円を出資総数4990口で除した9万3444円となり、本件出資4980口の総額は、4億6535万1120円となる。
三 801共有床の持分の評価
1 801共有床の敷地持分に本件特例を適用することの適否
被控訴人らは、801共有床の敷地持分も被相続人であるP2の事業の用に供される宅地であるから、その評価に当たっては本件特例が適用されるべきものと解すべきところ、P1が、本件相続に係る申告の際、801共有床の敷地持分に本件特例の適用を求めなかったのは、相続税の申告書の提出期限までに相続人らが現実に事業の用に供していなければ、本件特例の適用を認めないとするのが当時の課税庁の運用であったためであって、措置法69条の3第4項所定のやむを得ない事情が認められるものというべきであるから、本訴においてその適用を求め、本件更正処分を取り消すべきである旨を主張する。
本件特例を定めた措置法69条の3第1項が、当該相続開始の直前において事業の用に供されていた宅地について、課税価格に算入すべき価額に一定の割合を乗じる旨を定めているのは、被相続人の事業の用に供されていた宅地のうち面積200平方メートルまでの小規模宅地については、それが相続人等の生活の基盤の維持のために不可欠のものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であることから、その課税価格算入について政策的に特別の配慮を加え、個人事業者等の円滑な事業の承継を可能とする趣旨に基づくものである。そして、同条3項は、本件特例の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法27条又は29条の規定による申告書に本件特例の適用を受けようとする旨が記載され、計算に関する明細書その他の大蔵省令で定める書類の添付がされた場合に限り、本件特例を適用する旨を定め、相続税の申告時に本件特例の適用を受ける旨の申し出があることを本件特例の適用を受ける要件としているのであるから、申告書に上記の記載をせず、上記の書類を添付しないでした申告に対してされた更正処分の取消訴訟において、本件特例が適用されるべき旨をその違法事由として主張することは許されるところではない。
もっとも、措置法69条の3第4項は、税務署長は、相続税の申告書の提出がなかった場合又は本件特例の適用を求める旨の記載等がない相続税の申告書の提出があった場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに計算に関する明細書及び大蔵省令で定める書類の提出があった場合に限り、本件特例を適用することができる旨を定めているが、本件特例は、被相続人若しくは当該相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等のうち200平方メートルまでの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額において特例を認めるものであるところ、本件相続人らは、前記のとおり、本件相続に係る相続税の申告の際、本件相続人らの一人である被控訴人P4が相続により取得した東京都中央区δ1801番1号に所在する貸家建付地(260.32平方メートル)を本件特例を適用する宅地として選択し、被控訴人P4は、当該土
地のうち200平方メートル部分について本件特例を適用して同土地を2億3797万3201円と評価し、それを前提とした相続税の申告をし、被控訴人P4の相続税債務は既に確定をみているのであるから、もともと本件更正処分について同条4項の規定を適用すべき前提を欠いているものである。
したがって、被控訴人らの上記主張は採用することができない。2 貸家建付地及び貸家としての評価の適否
被控訴人らは、801共有床は、本件事業に係る事業計画によって当初から貸付けの用に供することが確定していたから、本件相続開始時に実際に賃貸借が行われていなかったとしても、本件敷地持分及び本件施設建築物持分を評価するに当たっては、これらが貸家建付地及び貸家であるという前提で評価されるべきであった旨を主張するところ、前記認定した事実関係によれば、もともと、P2は、本件従前地を所有して、これを建物所有を目的として他人に賃貸して地代を得てきたものであるが、本件権利変換によって、A棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を取得したものであり、801共有床は、平成2年6月14日に認可された権利変換計画において、P2を含む80名がこれを共有し、賃貸用事務所床として運用することが予定され、実際、平成7年1月の本件施設建築物の完成後に各テナントとの間において賃貸借契約が締結され、賃貸に供されたのであるから、本件相続が開始した平成5年9月24日当時においても801共有床が将来賃貸に供されることは確実であったともいうことができる。
しかしながら、いかに801共有床が賃貸用事務所床として運用することが確実であったとしても、現実に、賃貸借契約が締結されて借家権が設定されなければ、借家権の設定に伴う法的制約が課せられることはないのであるから、借家権があることを前提とした減額をすべき事情があるとはいえず、貸家建付地及び貸家の評価基準を定めた評価基本通達26及び93も、課税時期において当該建物が現実に賃貸に供されていることを前提として一定の減額を認めたものと解される。そうである以上、本件相続が発生した時点においては、801共有床のある本件施設建築物は建設の途上にあり、賃貸借契約も締結されていなかったのであるから、同時点において、801共有床が貸家に供されていたのも同然であるとして、貸家及び貸家建付地としての評価をすることは相当ではない。
被控訴人らは、P2や本件相続人らにおいて、801共有床を自ら使用し又は賃貸以外の用途に供するものとしてこれを処分することはおよそ不可能であり、自用の財産として評価することは不合理である旨を主張するが、本件相続が発生したのは平成5年9月24日であり、この時点では、801共有床の共有者らが同共有床の具体的な運用方法を合意した新宿アイランド共有者組合契約すら締結されていなかったもので、P2又は本件相続人らにおいて、801共有床内の事務所を自ら使用する意思をもった第三者にA棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を譲渡することができなかったともいえないから、被控訴人の上記主張は採用することができない。
これを実質的にみても、都市再開発法80条1項は、権利変換の対象者が施行区域内に有する宅地、借地権又は建築物の価額は、近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする旨を定めているところ、P2が所有していた本件従前地は、本件権利変換の際、66億6387万4000円と評価され、P2は、そのうち34億1743万1000円を補償金として受領したほか、残額の32億4644万3000円を権利変換の対象とし、本件施設建築物のうち、同金額に見合うように、居宅であるA棟501の給付を受ける権利及びその敷地持分並びに801共有床であるA棟801の共有持分の給付を受ける権利及びその敷地部分の共有持分を取得したものであり、都市再開発法73条1項4号所定の価額の概算額は、A棟801の共有持分の給付を受ける権利について8億0777万4000円、その敷地持分について21億3478万3000円の合計29億4255万7000円(これにA棟501に係る概算額を合計したものが上記32億4644万3000円となる。)とされたところ(同概算額については、同法81条が、第一種市街地再開発事業に要する費用及び近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない旨を定めていることに照らしても、P2が取得した801共有床の持分が上記概算額に見合うものであったというべきである。)、P1が本件修正申告をした際の評価額は、A棟801の共有持分の給付を受ける権利が5億3716万9710円、同敷地持分が13億2141
万1980円であって、上記概算額を相当程度下回っており、P1を含む本件相続人ら自身、申告時においては貸家建付地及び貸家としての評価をしていなかったことに鑑みても、上記評価額を更に減額すべき事情は見出し難いというほかない。3 本件敷地持分の評価
被控訴人らは、本件更正処分においては、本件施設建築物の敷地(1万9511.37平方メートル)を路線価に基づいて1平方メートル当たり1086万3480円と評価されたが、基準となる正面路線の位置を誤り、また、同敷地には複数の路線価が付されているにもかかわらず、加算額の調整が不適正であったほか、同敷地は、七角地の不整形地であるにもかかわらず、その補正もされておらず、適正な評価がされていなかったというべきところ、これらを考慮すると、同敷地は1平方メートル当たり974万4055円と評価されるべきであった旨を主張する。 甲第48号証及び弁論の全趣旨によれば、本件施設建築物の敷地は、四方を道路に囲まれた土地であり、東側及び南側の通りの平成5年度の路線価は1339万円、北側のε街道の路線価は1332万円であるものの、西側の道路は幅員の狭い路地であるため、その路線価も297万円又は425万円と低額であること、路線価が最も高い東側及び南側の各通りと本件施設建築物の敷地との接道関係を比べると、南側の通りの方が長いことの各事実を認めることができるところ、P1自身は、本件修正申告をした際、別紙3のとおり、西側の通りを一路線(正面路線)、南側の通りを二路線(側方路線)、北側の通りを三路線(側方路線)、西側の通りを四路線(裏面路線)と定めて四路線影響加算を行って、本件施設建築物の敷地の1平方メートル当たりの価額を1086万3480円と評価したことは前記認定のとおりであるから、西側の路地を裏面道路と位置づけ、その反対側の東側の通りを正面路線として四路線影響加算を行ったことは必ずしも不合理ではなく、そうである以上、同加算額の調整が不適正ともいえず、また、本件施設建築物の敷地は、本件事業遂行にとって十分な面積が確保され、宅地としての利用に支障が生じているとはにわかにいい難く、不整形地であるとしてその補正を行わなかったことが不合理であるとまではいえないから、被控訴人の上記主張は採用することができない。四 本件更正処分に更正の理由が付記されていなかった違法性
被控訴人らは、本件更正処分に係る通知書に更正処分を行う理由が十分に付記されておらず、本件更正処分には手続上の瑕疵があり、違法である旨を主張するが、税務署長が更正を行う場合において、その更正通知書に記載しなければならない事項は、国税通則法28条2項に規定されているところ、同条には更正の理由を付記することは要求されておらず、青色申告書に係る申告に対する更正においてとは異なって、相続税法上、更正処分に理由を付記しなければならない旨の規定はないのであるから、被控訴人らの上記主張も採用することができない。
五 本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性
以上によれば、P1が取得した財産の価額及び債務等の額の内訳並びに課税価格は、別紙1課税価格等の計算明細表のP1欄記載のとおりとなるというべきであり、これを前提に算出したP1の納付すべき相続税額の算出過程は別紙2の税額算出表のとおりとなるから、P2を被相続人とするP1の相続税の課税価格は15億7574万9000円、納付すべき税額は8億0258万9900円であるというべきところ、これは、本件更正処分の内容と一致するから、本件更正処分は適法である。そうすると、P1は、本件修正申告において、相続税の課税価格及び納付すべき相続税額を過少に申告していたというほかなく、これについて国税通則法65条4項にいう正当な理由も存しないから、同条1項により、本件更正処分によってP1が新たに納付すべきこととなった相続税額1億3816万円に100分の10を乗じて算出した1381万6000円を過少申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分も適法である。
六 結論
以上の次第で、被控訴人らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これを認容した原判決を取り消して、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 村上敬一
裁判官 水谷正俊
裁判官 永谷典雄

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