判例検索β > 平成16年(行ウ)第21号
愛知万博における索道(ゴンドラ)事業許可処分取消請求事件
事件番号平成16(行ウ)21
事件名愛知万博における索道(ゴンドラ)事業許可処分取消請求事件
裁判年月日平成16年7月8日
法廷名名古屋地方裁判所
判示事項2005年日本国際博覧会(愛知万博)会場間ゴンドラリフトの設置に際し,運輸局長が鉄道事業法32条に基づいてした索道事業許可処分の取消しの訴えにつき,索道施設から100メートルないし11キロメートル離れた場所に居住する者らの原告適格を否定した事例
裁判要旨2005年日本国際博覧会(愛知万博)会場間ゴンドラリフトの設置に際し,運輸局長が鉄道事業法32条に基づいてした索道事業許可処分の取消しの訴えにつき,鉄道事業法(平成15年法律第96号による改正前),同法施行規則(平成16年国土交通省令第1号による改正前)及び同法35条を受けて技術上の基準を定める省令が保護しようとしている利益は,索道利用者の生命及び身体の安全といった一般的公益にとどまり,索道周辺住民ないし索道と交錯する道路ないし鉄道を利用する者の生命,身体,財産という個々人の個別的利益を含むとはいえないから,索道施設から100メートルないし11キロメートル離れた場所に居住し,自己の生命,身体の安全,財産権,人格権,環境権ないし自然享有権が侵害されると主張する者らは,前記処分の取消しを求める法律上の利益を有する者に当たらず,原告適格を有しないとした事例
裁判日:西暦2004-07-08
情報公開日2017-10-18 04:35:07
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主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
被告が平成15年12月26日付けで財団法人二千五年日本国際博覧会協会に対してした索道事業許可処分(許可番号・中運鉄枝第212号)を取り消す。第2 事案の概要
本件は,被告が,財団法人二千五年日本国際博覧会協会(以下博覧会協会という。)からの索道事業許可申請に対し,前掲許可処分(以下本件処分という。)をしたところ,原告及び選定者ら(以下原告らともいう。)が,博覧会協会の設置する予定の索道施設(以下本件ゴンドラという。)には十分な安全及び事故予防対策がなされていないなどと主張して,本件処分の取消しを求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実,各項末尾記載の証拠により明らかに認めることのできる事実等)
(1) 当事者
原告らは,いずれも肩書地に居住する住民である。
被告は,鉄道事業法(平成15年法律第96号による改正前のもの。以下法ともいう。)64条及び鉄道事業法施行規則(平成16年国土交通省令第1号による改正前のもの。以下規則ともいう。)71条1項15号により,索道事業許可処分の権限を国土交通大臣から委任されている。
(2) 国際博覧会の開催予定と本件ゴンドラの設置計画
2005年日本国際博覧会(以下本件博覧会という。)は,平成17年3月25日から同年9月25日までの185日間,愛知県東部の長久手会場と瀬戸会場の2会場において開催されることが予定されている国際博覧会である(乙1)。 本件博覧会の開催主体である博覧会協会は,上記2会場間の人員輸送のため,本件ゴンドラを設置,経営すべく,平成15年12月9日,被告に対して,法32条の索道事業の許可を求める申請をした(乙2の1・2)。
(3) 本件処分
被告は,平成15年12月25日付けで,博覧会協会に対し,申請のあった普通索道事業(扉を有する閉鎖式の搬器を使用するもの)について,次のとおりの許可処分をした(乙3。以下本件処分という。)。
ア 索道の名称
2005年日本国際博覧会会場間ゴンドラリフト
イ 線路の起終点
(ア) 起点 愛知県愛知郡長久手町大字熊張字茨ヶ廻間乙1533-1(イ) 終点 愛知県瀬戸市吉野町320-1
ウ 索道の方式
単線自動循環式 8人乗り
エ 線路傾斜こう長
2026.08メートル
(4) 原告らの居住地と本件ゴンドラ設置予定地との位置関係
ア 原告の居住地は,別紙1のA地点であり,本件ゴンドラの設置予定地から約3キロメートル離れている(乙9の1)。
イ 選定者aの居住地は,別紙1のB地点であり,本件ゴンドラの設置予定地から約11キロメートル離れている(乙9の1)。
ウ 選定者bの居住地は,別紙1のC地点であり,本件ゴンドラの設置予定地から約4キロメートル離れている(乙9の1)。
エ 選定者cの居住地は,別紙2のD-1地点,同dの居住地は,別紙2のD-2地点,同eの居住地は,別紙2のD-3地点,同fの居住地は,別紙2のD-4地点であるところ,このうち本件ゴンドラに最も近い選定者e及び同fの各居住地と本件ゴンドラの設置予定地との距離は,約100メートルである(乙9の1ないし3)。
2 本案前の争点(原告らが本件処分の取消しを求める訴えの原告適格を有するか)
(1) 被告の主張
以下のとおり,原告らは,本件処分の取消しを求めるにつき行政事件訴訟法(以下
行訴法という。)9条所定の法律上の利益を有する者に当たらない。ア 行訴法9条にいう処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たる。その判断に当たっては,当該行政法規の趣旨及び目的並びに当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すべきである。イ 原告は,その主張に照らすと,国道,県道等を安全に利用する利益というべきものを原告適格を基礎付ける法律上の利益と構成していると解されるが,本件処分の根拠となった法及び関係規定を通覧しても,これらの法規が索道事業経営の許可処分を通じて,原告が主張するような上記利益を個別具体的な法益として保護しているとはいえない。
なお,原告は,法34条1号を受けて定められた索道施設に関する技術上の基準を定める省令(以下「技術上の基準を定める省令ともいう。)」17条をもって原告の主張する利益が法律上保護された利益であることの根拠とするようにも解される。しかし,同条は,搬器の窓から乗客が故意又は過失によって物を落下させるおそれがある場合に備えた規定であって,索道の構築物それ自体の落下を想定したものではなく,原告の主張する利益が法律上保護されていることを基礎付けるものではない。
ウ また,原告は,本件ゴンドラの倒壊等によって,自己の居住する建物に被害が及ぶことにより,その生命・身体が害される可能性があるとの主張をしているとも考えられなくはない。しかし,技術上の基準を定める省令が,索道施設の脱索,倒壊,落下等を防止するために一定の基準を定めているのは,直接的には利用者の安全性確保のためであるところ,周辺住民等の安全もこの旅客利用者の安全性確保の要請の中に包摂される関係に立つ。したがって,かかる規定で保護しようとしているのは利用者の安全という一般公益であるとみるのが相当である。仮に,法が索道設備の倒壊,落下等により直接の影響を受ける蓋然性のある近隣住民の生命,身体を個別具体的な法益として保護しているとみる余地があるとしても,原告の居住地は本件ゴンドラから約3キロメートル離れているから,これにより,原告の生命,身体が直接の影響を受ける蓋然性を認めることはできないし,選定者らについても,本件ゴンドラから少なくとも約100メートル離れているのであり,本件ゴンドラの倒壊,落下等により選定者らの生命・身体が害される蓋然性は認められない。
(2) 原告の主張
ア 以下のとおり,原告らは,本件処分によって,周辺住民としての生命及び身体の安全,財産権,人格権,環境権並びに自然享有権といった各法益を侵害され,あるいは侵害されるおそれがあるから,本件処分の取消しを求める原告適格を有する。
(ア) 生命,身体,財産に対する侵害の危険
本件ゴンドラは,国道155号線,県道6号線力石名古屋線及び東部丘陵新鉄道線(リニアモーターカー新路線)の上空を通過する日本でも初の極めて特異な形態を有しているものであり,搬器を空中に宙づりにさせて移動させることから,安全対策が常に重大な問題となる。
本件ゴンドラの建設が行われることにより,そのルートの直下及び周辺に搬器からの不特定の物品並びにゴンドラ施設及びその付属物が落下,倒壊する可能性を否定することができない。
このような落下,倒壊の事故等によって,本件ゴンドラと交錯する国道,県道及び鉄道線路を日常的に利用している原告らの生命・身体の安全が侵害され,又は侵害される危険性が存在する。また,事故等によって,死者の発生,交通遮断及び渋滞の発生を免れず,原告らの基本的人権ともいえる安全,安心及び平穏な生活を営む生活権を侵害される。特に,瀬戸市α町β丁目を肩書地とする選定者らの居住地は,主要公道へ出るには本件ゴンドラ直下の道路を使用するほかないから,事故,渋滞等により上記出入口が遮断されることになれば,防災,防火,防犯等に重大な支障となり,日常生活にも同様な支障を来すなど,同人らの平穏な生活に極めて重大な影響を及ぼすことになる。
(イ) 環境権ないし自然享有権に対する侵害の危険

瀬戸会場,長久手会場及び本件ゴンドラ事業用地周辺には,オオタカの営巣やムササビ,ハッチョウトンボ,ギフチョウ,シデコブシ及びカザグルマ等希少種が生息し,豊かな自然生態系が存在する。種の保存法により保護対象とされているオオタカの平成17年の営巣期は,ゴンドラ輸送の最盛期であり,そのテリトリーはゴンドラのワイヤーで分断されるほか,ゴンドラの振動や金属音は,その営巣を困難ならしめ,絶滅に追い詰める。また,本件ゴンドラの設置工事に当たって,工事業者の作業員は,絶滅危惧植物であるカザグルマの生息地に何の配慮もなく立ち入り,生息地を踏み荒らした。このように,本件ゴンドラの工事及び稼働によって,その事業用地周辺の貴重な生態系が破壊される。
良好な自然環境を保護,保全し,将来にわたって持続,継続していくことは,広く国民の責務であるとともに,健康で文化的な生活を営むために,環境権,自然享有権は,国民個々の権利として保護されなければならない。本件ゴンドラ設置予定地に隣接する瀬戸市α町β丁目に居住する選定者らはもとより,その余の原告らも,この地を利用し,自然環境を保護,保全する活動を行っている者として,本件ゴンドラの工事及び稼働により,自然享有権,環境権を侵害される。
(ウ) 本件ゴンドラの利用者としての利益
また,原告らは,本件ゴンドラの供用開始後は,たとえ6か月間といえども,本件ゴンドラを利用することにもなるから,本件ゴンドラの安全性について論じる権利を有している。
(エ) 国民,県民,市民,町民及び有権者としての利益
万が一,本件ゴンドラ事業による事故等が発生した場合,その危険性についてかねてから警鐘を鳴らしている原告らは,事故を未然に防ぐことができなかったことから耐え難い精神的苦痛を被るばかりでなく,その処理対策のための出費が増大し,現在でも予定した寄付金が集まらないなどの資金難の状況にある県及び市町の負担を増大させ,ひいては住民である原告らの負担となる。
イ 被告は,原告適格を論ずるに当たり,原告らの居住地の位置と支柱の高さから推計して保護すべき個別的利益を有するか否かの判断を行っているが,これは,原告適格を微視的に詮索するという悪しき実例である。
すなわち,ゴンドラ支柱や設備の倒壊という事態が生起すれば,支柱のみが倒れるのみならず,付随する諸設備,搬器,索条塔も同時に地上に落下することとなる。このような事態が周辺住民の日常生活と生活環境に多大な悪影響を与えることは想像に難くない。
既に知られているように,空港,基地,道路等がもたらす公共の利益と,それらに伴う環境悪化等によって生ずる私人の被害とを高次元で調整するためには,抗告訴訟によるほかはなく,本件訴訟も同様である。そして,本件紛争の本当の当事者は地域住民であるから,同人らに原告適格が認められなければ紛争の解決にはならない。本件訴訟において,公共的な利益を住民が代弁することによって初めて司法による適法性審査が可能となる。裁判所は,原告適格を殊更に狭めることにより司法に託された責任を回避すべきではない。当事者が実質的な争点を巡る主張立証を尽くし,これに裁判所が正面から取り組むことが,国民の熱望する司法本来の姿である。
3 本案に関する原告の主張(本件処分の違法性)の概要
本件ゴンドラにおいては,搬器自体の落下及び搬器からの落下物による危険性が増大する国道155号線,県道6号力石名古屋線,東部丘陵新鉄道線上に防護ネット,防護幕,防護トンネルなどの防護措置の設置が予定されておらず,技術上の基準を定める省令17条による防護設備による設置による安全対策が取られていない。
また,地震,強風,落雷及び停電等の事態により,搬器が停留場以外の場所で停止した場合,乗客を安全に救助することができるものでなければならないところ,本件ゴンドラ線下の保安林内樹林地である瀬戸市α町β丁目周辺地内では,樹木の伐採は計画されていないから,乗客を安全に救助することができず,技術上の基準を定める省令7条,8条に違反する。
第3 当裁判所の判断
1 本案前の主張について
(1) 行訴法9条所定の法律上の利益を有する者の意義
行訴法9条所定の法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうところ,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一
般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たるというべきであるから,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨及び目的並びに当該行政法規が当該処分を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質等を総合考慮して判断すべきである(最高裁判所平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,同裁判所平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁等参照。)以下においては,このような見地から,索道事業の許可処分を定めた法及びその下位規範が個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨を含むか否かを検討する。
(2) 鉄道事業法等の保護する利益
ア 鉄道事業法の規定等
鉄道事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とするものである(法1条)ところ,索道事業を経営しようとする者は,専ら貨物を運送する索道及び国が経営する索道であって地方運輸局長の承認を受けたものを除き,索道ごとに地方運輸局長の許可を受けなければならず(法32条,64条,規則44条,71条1項15号),その許可に際しては,提出された工事計画が法35条の国土交通省令で定める技術上の基準に適合するか否か,事業を自ら安全かつ適確に遂行するに足りる能力を有するか否かを審査すべきものとされている(法34条)。
そして,法35条を受けて,技術上の基準を定める省令(乙7)が定められているところ,同省令は,索道線路は,索条,支柱及び受索装置等にかかる荷重が脱索等の危険を生じさせるおそれのないものであること(7条前段),索条は,予想される最大荷重に耐える強度を有し,搬器の運転に耐えるものであること(11条),搬器は,予想される最大荷重に耐える強度を有するものであること(23条1号)など,索道施設の各設備が予想される最大荷重に耐え得る強度を有することを求めている。
また,同省令は,搬器が停留場以外の箇所で停止した場合に乗った人を安全に救助することができるものであること(7条後段,23条4号),搬器とこれに近接する建造物等との間隔は,急停止等による搬器の動揺を考慮し,建造物等との接触により乗った人に危害を及ぼすおそれのないこと(8条1項),運転速度及び搬器の出発間隔は,停留場における旅客の安全かつ円滑な乗降及び停留場間における旅客の安全な運送に支障を及ぼすおそれのないものでなければならないこと(10条),搬器は乗った人の転落,転倒等の危険を生じさせるおそれのない構造であること(23条3号)などを定めている。
そのほか,同省令は,物の落下による危険が生じるおそれのある箇所又は搬器に乗った人を保護する必要がある箇所には,適当な保護設備を設けなければならないものとしている(17条1項)。
イ 鉄道事業法等が保護する利益
前記のような法,規則及び技術上の基準を定める省令を通覧すれば,索道事業の利用者の生命及び身体の安全を確保すべく,索道設備の強度,構造,運行等を規制する趣旨の規定が多数存在すると認められるのに対し,これから離れて索道施設の周辺住民固有の生命,身体,財産等の保護を目的とすることをうかがわせる規定を見いだすことはできない(同省令8条1項は,搬器と建造物等との接触を生じさせないための規定であり,間接的には当該建物の居住者や所有者の利益を保護する結果を生ずるとしても,その主旨は利用者の安全の確保にあることは文言上明らかである。また,搬器自体の落下自体は,同省令7条,11条,23条1号等による索道設備の強度の確保によって防止され得ることを考慮すると,同省令17条1項は,搬器からの物の落下による公衆の保護を目的とする規定であると解される。)。また,同省令は,索道事業に伴って発生し得る脱索,搬器の落下,支柱の倒壊等による事故を防止するための基準を定めているところ,これらの事故は,旅客を運送する索道だけではなく,専ら貨物を運送する索道についても発生するおそれのあることが明らかである。にもかかわらず,前記のとおり,法及び規則が,専ら貨物を運送する索道については地方運輸局長の許可を要しないとしていることは,地方運
輸局長が索道事業の経営を許可するに当たって技術上の基準に適合しているか否かを審査する方式を採用することによって保護しようとしている利益が,索道を利用する者の生命及び身体の安全の確保であることを推測せしめるものである。しかるところ,本件ゴンドラの利用者の範囲は,その性質上,何ら限定されることがなく,抽象的にはだれもがその利用者となる可能性を有すると考えられるから,かかる利用者の利益なるものは,一般的公益以外の何物でもないといわざるを得ない。
そうすると,法,規則及び技術上の基準を定める省令が保護しようとしている利益は,索道利用者の生命及び身体の安全といった一般的公益にとどまり,索道周辺住民ないし索道と交錯する道路ないし鉄道を利用する者の生命,身体,財産という個々人の個別的利益を含むとはいえないから,索道施設が十分な安全性を備えることによって後者の利益も確保されるとしても,それは反射的利益にすぎないと解するのが相当である。
(3) 本件における原告適格について
原告は,本件ゴンドラの搬器等の落下等の事故によって,本件ゴンドラ建設予定地周辺に居住し,あるいは本件ゴンドラと交錯する道路又は鉄道を利用する原告らの生命,身体,財産権及び人格権(平穏な生活を営む権利)が侵害されるおそれがあると主張するが,前記のとおり,索道事業を地方運輸局長の許可にかからしめることとした法32条が,原告らのような立場の権利ないし利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むとはいえない。
また,原告は,本件ゴンドラ建設予定地周辺の希少動植物種を含む豊かな環境を享受する権利(環境権)ないし自然を享有する権利(自然享有権)を原告適格の根拠として主張する。これら環境権及び自然享有権に具体的な権利性を認めることができるか否かはさておくとしても,法,規則及び技術上の基準を定める省令を通覧しても,索道事業用地周辺の自然環境を保護する趣旨はうかがわれないから,これら環境権ないし自然享有権をもって,原告適格を基礎付けることはできない。さらに,原告は,本件ゴンドラの利用者としての立場から原告適格が認められるかのごとく主張するが,前記のとおり,かかる利用者の利益なるものは,一般的公益にすぎないというべきであるから,法,規則及び省令が,これを個別的利益として保護の対象としていると解することは到底できない。
よって,原告らは,行政事件訴訟法9条にいう処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たると解することはできない。
(4) 民衆訴訟等としての適法性
なお,原告は,国民,県民,市民,町民及び有権者などの地位に基づき,事故発生時に予想される精神的苦痛や財政上の負担をもって原告適格を基礎付けようとする。
しかしながら,上記のような地位は,日本国の国籍や当該普通地方公共団体の住民たる資格を有する者一般に認めることができるから,かかる者の訴えは,自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する民衆訴訟の性質を有すると解するほかないが,民衆訴訟は,法律に定める場合において,法律の定める者に限り,提起することができるものとされている(同法42条)ところ,本件のような索道事業の経営許可処分の取消しについて,上記地位に基づいて出訴を認める法律は存在しないので,かかる訴えが不適法であることは明らかである。
また,事故発生時の精神的苦痛や財政上の負担については,仮に原告らがこれらを被ることを否定できないとしても,法,規則及び省令がこれらの利益を保護の対象としていると解することができないことは,前記の判示から明らかである。2 結論
よって,本件訴えは不適法であるから却下することとし,訴訟費用の点について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 舟橋恭子

裁判官 尾河吉久
(別紙省略)

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