判例検索β > 平成16年(行コ)第166号
法人税更正処分取消請求控訴事件(原審・千葉地方裁判所平成14年(行ウ)第32号)
事件番号平成16(行コ)166
事件名法人税更正処分取消請求控訴事件(原審・千葉地方裁判所平成14年(行ウ)第32号)
裁判年月日平成16年11月17日
法廷名東京高等裁判所
判示事項税務署長が,特定非営利活動促進法別表1号所定の保険,医療又は福祉の増進を図る活動を行う同法2条2項所定の特定非営利活動法人に対してした法人税の更正につき,家事,介助,介護等の提供を希望する同法人の会員に対し,他の会員の協力を得て,前記サービスを提供する同法人の事業は,一定の役務を提供して対価を受けるものであって,法人税法施行令5条1項10号にいう請負業に該当するから,前記事業は法人税法7条,2条13号所定の収益事業に該当するとして,前記更正を適法とした事例
裁判日:西暦2004-11-17
情報公開日2017-10-19 20:25:50
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主 文
本件控訴を棄却する
控訴人費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成13年12月11日付けで控訴人に対してした控訴人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち,所得金額733万7677円,納付すべき税額161万2200円を超える部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 控訴人は,平成11年4月に千葉県知事から設立の認証を受けた特定非営利活動法人であり,法人税法7条所定の内国公益法人に当たる。控訴人は,流山市からの受託事業,介護保険事業に加えてふれあい事業(以下本件事業という。)を行っているが,平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度分の法人税について,被控訴人に対し,所得金額を709万1791円,納付すべき税額を155万8000円とする更正の請求をした。これに対し,被控訴人は,同年12月11日,所得金額を1018万円6046円,納付すべき税額を241万3800円とする更正(以下本件更正という。)をした。
これを不服とする控訴人は,被控訴人に対し,異議の申立てをしたが,これが棄却されたので,国税不服審判所長に対し,本件更正について審査請求をしたが,これに対する裁決がなされる前に,控訴人の営む本件事業が同法7条,2条13号所定の収益事業に該当しないにもかかわらず,本件更正はこれに該当するとして本件事業から生じた所得に対して法人税を課したものであるから違法であると主張して,被控訴人に対し,本件更正のうち所得金額733万7677円,納付すべき税額161万2200円を超える部分の取消しを求めて本件訴えを提起した。2 原判決は,本件事業が法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に当たるから,同法2条13号所定の収益事業に当たり,これにより控訴人に生じた所得は,同法7条により法人税の課税対象になり,本件更正は適法であると判断して控訴人の本件請求を棄却したので,これを不服とする控訴人が控訴した。3 前提事実と争点及びこれに関する当事者の主張は,4において当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由中第2 事案の概要の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
(1) 本件事業は,控訴人の会員が行う非定型的・非類型的な助け合いのボランティア活動である援助サービスであり,その重点は,外形的な援助行為ではあるが,これを通じて,会員が人間愛に基づいて助け合っていることを確認し,相互に精神的な連帯感や安心感を生み出すところにある。このような実態の本件事業についてまでも,法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に該当すると解することは,その文言ないし趣旨に反するといわなければならない。ところが,原判決は,本件事業を一定の仕事又は事務と解し,上記請負業に該当すると判断しているが,これは法令の解釈を誤ったものか,あるいは本件事業の実態を誤認したものである。
(2) 本件事業における援助サービスの提供主体はサービスを提供する協力会員であるのに,原判決は,これを控訴人であると誤認している。控訴人は,注文を受けて外形的に家事などを行うサービスを提供することを目的として活動しているのではなく,会員間の助け合いを調整し,推進するための活動を活動を行っているものであり,事業の主体ではない。
(3) 原判決は,控訴人の運営規則で援助サービスを利用する会員の負担額が800円(1時間当たり)と定められていることをもって,控訴人の行った仕事の完成又は事務処理に対する報酬であると認定している。しかし,これは援助サービスを利用する会員がこれを提供する協力会員に謝礼の趣旨で600円相当分及び協力会員に託して控訴人に寄付する趣旨で200円相当分(いずれも1時間当たり)のふれあい切符を交付しているものであるから,これを報酬と認定した原判決の判断は誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は,以下において当審における控訴人の主張に対する判断を付加する
ほかは,原判決の事実及び理由中第3 争点に対する判断に記載のとおりである。
2 当審における控訴人の主張(1),(3)について
前記のとおり,控訴人の運営細則には,本件事業によって控訴人の会員である利用者に提供される援助サービスの種類が例示列挙されており,その中には,炊事・洗濯などの家事,介助・介護など一定の仕事の完成を目的とするものだけでなく,話相手,相談,助言など一定の仕事の完成を目的としないものの,相手の有形・無形の行為を必要とする事務処理が含まれていること,また,これに対する対価については,運営規則において,援助サービスを利用する会員は,控訴人が発行する1点当たり100円相当のふれあい切符を予め購入し,援助サービスの提供を受けた場合には,原則として,1時間当たり8点(800円相当。ただし,車椅子による通院外出介助については,外出先が市内の場合には16点とする。),超過時間については30分当たり4点(400円相当)のふれあい切符を援助サービスの提供に協力した会員に交付し,さらに,通院外出介助の場合を除き,協力会員の交通費として,2点(200円相当)のふれあい切符を交付することと定められていること,そして,この運営細則に従って実際の運用がなされていることが認められるから,本件事業を法人税法施行令5条1項10号にいう

請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)

に該当するとした原判決の判断は,原判決摘示の証拠に照らし是認することができる。
これに対し,控訴人は,本件事業による援助サービスが非定型的・非類型的な助け合いのボランティア活動であり,家事等の外形的サービスを通じて精神的・友誼的交流を行うことに重点があるから,これについてまで上記

請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)

に該当すると認めることはできない旨主張する。確かに,証拠(控訴人代表者)によれば,控訴人の主張するとおり,援助サービスに当たり,その提供に協力する会員は,ボランティア活動として,利用する会員に対し,単に家事等の外形的なサービスを行う目的だけでなく,人間愛に基づく精神的な連帯感や安心感を求めていることがうかがわれ,そのような意図の下でなされる控訴人の会員の援助サービスは極めて貴重なものであると考えられる。しかしながら,この精神的交流は援助サービスのいわば究極の目的とされているものと理解すべきであって,外形的形態である家事等のサービスを行わなくてもよいとする趣旨ではない。要するに,会員の希望する家事等のサービスが提供されることを通してこの最終目的を達成し,サービス利用者側及びサービス提供側の会員相互間に精神的交流がなされることを意図しているとみるべきである。そうすると,サービスを利用する会員とこれの提供に協力する会員との間でなされる援助サービスを通じて,会員同士の精神的交流が生み出されることを考慮しても,家事等の外形的サービスの重要性を無視することはできず,会員の主観的意図はともかく,客観的事業形態を見ると,そのサービスを法人税法施行令5条1項10号所定の事務処理の委託を受ける業を含む請負業と解するのが相当である。
また,控訴人は,援助サービスを利用する会員の負担額はサービスを受けたことに対する対価(報酬)ではなく,その利用する会員が提供に協力する会員に支払う謝礼と控訴人に対する寄付の合計額である旨主張する。しかし,原判決が説示するとおり,援助サービスを利用する会員の負担額が謝礼ないし寄付というのであれば,最終的には,その利用会員が謝礼ないし寄付を行うかどうか,行うとすればどのような内容にするかを自己の自由意思で決定すべきところ,控訴人の運営規則では予め負担額が予定され,これをふれあい切符で決済する旨定められており,援助サービスの利用会員の自由意思に委ねられているとは解せられない(もっとも,会員の中には,当初の予定時間を超えても,超過時間相当のふれあい切符を受領しない場合もあるが,これはサービスの提供に協力する会員が予定時間内のサービスを提供した後,無償で予定時間経過後にサービスをしたものであり,当初のサービスまでをも無償にするものではないと解されるから,サービスに対する対価性を認める妨げとなるものではない。)。これに加えて,援助サービスの利用会員の負担額を1時間当たりふれあい切符8点(800円相当),提供会員の受領額を1時間当たりふれあい切符6点(600円相当)と比較的低い金額が定められているが,控訴人が営利を目的としない特定非営利活動法人であり,控訴人の会員も利益を得ることが目的ではなくボランティアとして本件事業に参加しているものであることからすると,援助サービスの提供による価格を営利を目的とする法人の価格より低額に抑えられているのも当然ともいうことができること,また,介護保険の家事援助に対する報酬額が1時間当たり最低1530円と定められていること,平成12年
度の千葉県の最低賃金が1時間当たり672円であること(甲13)を併せ考えると,本件事業における援助サービスに対する利用会員の負担額が些少でせいぜい儀礼的な謝礼にすぎず,おおよそ対価となり得ないものと認めることはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用できない(なお,仮に,負担額に対価性が認められないとしても,控訴人が本件で受領する事務運営費は,サービス斡旋の対価と解するほかないから,本件事業が被控訴人の予備的主張である周旋業に該当することは免れないというべきである。)。
3 当審における控訴人の主張(2)について
前記のとおり,控訴人の運営細則によれば,援助サービスの利用の申出方法,その手順等,その提供を会員がする場合の手続等,援助サービスの内容,援助サービスを利用した場合の負担額,決済方法,援助サービスの提供をした協力会員に対する支払額,これに代わる時間預託制度,援助サービスの提供に対する苦情処理等について,控訴人が主体となって進めることが定められ,実際の運営も上記運営細則どおり控訴人が主体となって行っていることが認められるから,本件事業の援助サービス提供の主体を控訴人とし,援助サービスの提供に協力する会員を控訴人の履行補助者として利用会員に援助サービスを提供しているとした原判決の判断は,原判決摘示の証拠に照らし是認することができる。
これに対し,控訴人は,援助サービスの利用を希望する会員とこれを提供する協力会員との連絡調整を行っているにすぎず,本件事業における援助サービスの提供主体は援助サービスを提供する協力会員である旨主張する。確かに,サービス提供に協力する会員は,控訴人との間の雇用契約等の法律関係に基づく指示等を受けるものではなく,あくまで自主的判断で控訴人からの要請に応じているというべきであり,会員の任意の協力なくしては本件事業が成り立たないことは事実である。しかし,原判決が説示するとおり,そのような会員の協力を取り付け,援助サービスの需給関係を調整管理して運営する事務を控訴人が行うことにより本件事業が遂行されていること,本件事業における援助サービスの運営方法等に加えて,援助サービスの利用会員の負担額が控訴人の運営細則で予め定められ,援助サービスの利用会員とこれの提供に協力した会員との間で,利用会員の負担額を合意で変更することは予定されていないこと,援助サービスの提供に対する苦情があるときには,利用会員及び協力会員が直接苦情を述べ合わないで控訴人に連絡することになっていること,援助サービス中に事故が発生した場合,協力会員に故意又は重過失があれば協力会員がその責任を負うが,重過失に至らないときの責任については格別の定めがないが,このような場合,

責任の帰属が不明なものについては事務局に連絡する。事務局はこれを受けて誠意を持って対応する。

と定められている趣旨からして,控訴人についてまで免責されるとは解されず,現に,控訴人は,本件事業における援助サービスによって生じた事故について損害保険に加入していること(甲12,原審における控訴人代表者)が認められ,これらを併せ考えると,援助サービスの主体はこれを提供する協力会員である旨の控訴人の主張は採用できない。4 以上要するに,本件事業は,これに携わる控訴人あるいはその会員の主観的意図や究極の目的を捨象して見た場合,外形的形態としては,介護保険事業あるいはその周辺のサービスと共通する要素があることは否定できず,控訴人は,これを行うことによって多額ではないにしても剰余金を取得しているということができる。そうだとすれば,現行の税体系を定める法制度の下においては,法人税の課税がされることはやむを得ないというほかない。控訴人は,このような課税がボランティアのインセンティブを喪失させ,社会が必要としている活動を障害すると主張するが,立法論としては傾聴すべきであるとしても,現行法の解釈,運用としては,その主張を採用することは困難である。
第4 結論
以上によれば,本件請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 相良朋紀
裁判官 打越康雄
裁判官 吉田健司

トップに戻る

saiban.in